理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: C-P-05
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ポスター発表
慢性疼痛を有する胸腰部脊椎疾患患者における日常生活活動障害と破局的思考の関連性
古谷 久美子伊藤 貴史齋藤 裕美吉川 俊介星野 雅洋大森 圭太五十嵐 秀俊
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抄録

【はじめに、目的】当院では胸腰部脊椎疾患患者に対して手術療法が多く施行されており,患者の多くが慢性疼痛を有している.慢性疼痛は,身体機能の低下や抑うつ・不安などを引き起こし,睡眠を妨げ,日常生活活動(以下ADL)の多くを阻害しうるといわれている.疼痛を訴える患者の中には心理的問題により症状が維持・悪化している者も多い.慢性疼痛の維持要因である代表的な認知的要因として,痛みの経験をネガティブにとらえる傾向である破局的思考が挙げられており,その程度を評価する尺度として,Sullivanらによって作成されたPain Catastrophizing Scale(以下PCS)が近年最も使用されている.そこで今回,手術が適応となった胸腰部脊椎疾患患者の心理的側面に着目し,PCSと腰痛・下肢痛によるADL障害を評価する疾患特異的評価法オスヴェストリー能力指数(Oswestry Disability lndex:ODI)の関連性について検討したのでここに報告する.【方法】対象は,2012年1月から11月までに胸腰椎脊椎疾患の手術目的で当院へ入院した患者で,腰背部または下肢に慢性疼痛を伴う101名(男性58名,女性43名,平均年齢(標準偏差)65.9(13.0)歳,BMI(標準偏差)24.7(4.0)kg/m²)とした.除外基準は,胸腰椎以外に著明な合併症を有している者,質問形式の評価法の理解が困難な者とした.疾患の内訳は,腰部脊柱管狭窄症73例,腰椎椎間板ヘルニア10例,腰椎変性すべり症8例,変性側弯症3例,変性後弯症7例であった.評価項目は,1)PCS(下位項目「反芻」「無力感」「拡大視」),2)ODIとした.PCS は痛みに対する破局的思考を測定する尺度で,13 項目の質問形式からなり,そこから更に「反芻」「無力感」「拡大視」の3つの下位尺度に分類される.13項目に対し,普段痛みを感じている自分の状態にどの程度当てはまるかを5段階のリッカートスケールを用いて回答する方法である.ODIは世界で最も広く使用されてきた患者立脚型の腰痛疾患に対する疾患特異的評価法のひとつである.評価方法は,手術前の安静時に自己記入方式にて回答させた.統計解析にはPCSおよびPCS下位項目とODIの関連をみるためにPearsonの積率相関係数を用いた.【倫理的配慮、説明と同意】全対象者に対して,ヘルシンキ宣言に基づき,事前に本研究の目的,研究への参加の任意性と同意撤回の自由について説明を行い,本研究協力への同意を得た.【結果】PCSの平均値(標準偏差)は30.8(10.2)点で,下位項目では「反芻」11.0(4.6)点,「無力感」12.7(4.0)点,「拡大視」7.1(3.1)点であった.ODIの平均値(標準偏差)は39.9(18.7)%であった.統計解析の結果,PCSとODIに相関を認めた(r=0.394,p<0.001).また下位項目の「反芻」(r=0.435,p<0.001),「無力感」(r=0.320,p=0.001)「拡大視」(r=0.258,p=0.009)についてもそれぞれ相関を認めた.【考察】今回,手術が適応となった慢性疼痛を有する胸腰部脊椎疾患患者において,PCSとODIに相関関係を認めた.また,PCSの下位項目である「反芻」「無力感」「拡大視」とODIについてもそれぞれ相関関係を認め,特に「反芻」との関連が強い事が確認された.この結果より,慢性疼痛を有する胸腰部脊椎疾患患者は,痛みに対する破局的思考が強く,ADLにも影響を及ぼしている事が示された.「反芻」とは同じ事について繰り返し考えることである.長期間にわたり痛みについて反芻する事で恐怖心が生じ,痛みを引き起こす可能性がある行動や活動を回避するようになる.このような逃避・回避行動により活動量が低下することで,機能障害に加えて能力障害が生じると考えられる.慢性疼痛患者はその後うつ状態の有病率が高いとされており,「反芻」は抑うつの発症・維持の認知的要因とも言われている.抑うつ状態もADL低下の要因の一つであることから,反芻を軽減するために心理的側面からの介入を行う事はADLの維持・向上につながると考える.今後の課題として,術前・術後のPCSの変化とODIの関連性を継続的に調査することで,術前の心理的側面の評価が術後ADLの予後予測に役立つと考える.【理学療法学研究としての意義】慢性疼痛を有する胸腰部脊椎疾患患者に対して身体機能向上だけでなく,心理的側面を考慮した介入を行う事がADL向上につながる可能性が示された.術前の痛みに対する破局的思考を把握することは,より効果的な介入方法の確立および臨床成績の向上につながると考える.

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© 2013 日本理学療法士協会
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