理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: C-P-05
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ポスター発表
腰椎変性疾患術前の健康関連QOLの特性および影響を及ぼす因子の検討
谷澤 真飛永 敬志宮崎 千枝子橋本 久美子大関 覚
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抄録

【はじめに、目的】 腰椎手術は進行性の神経麻痺を認める以外は基本的に待機手術であり,保存的治療が難渋し慢性に経過した患者が対象となる.腰椎変性疾患患者は,機能障害やADL低下のみならず健康関連QOL(HRQOL)の低下も生じるとされている.さらに,HRQOLに及ぼす影響は他疾患より大きいといわれている.先行研究では保存的治療が行われている腰椎変性疾患患者に関する報告や手術前後での比較を行った報告はあるが,術前の特性に関して詳細に検討した報告は渉猟した限り見当たらない.本研究目的は腰椎変性疾患術前の患者に対して,HRQOL,動作能力,セルフ・エフィカシー,身体機能を評価し,術前の特性としてHRQOLの関連要因を明らかにすることである.【方法】 2011年10月から2012年11月までに当院整形外科で腰椎変性疾患にて手術目的で入院し,術前にHRQOL,動作能力,セルフ・エフィカシー,身体機能評価を行った40例(男性24名,女性16名,平均年齢61.2±17.5歳)を対象とした.疾患の内訳は腰椎椎間板ヘルニア(LDH)14例,腰部脊柱管狭窄症(LCS)26例であった.HRQOLの評価指標としてSF-36の下位8尺度の国民標準値に基づいたスコアリング得点および身体的サマリースコア(PCS),精神的サマリースコア(MCS),役割・社会的サマリースコア(RCS)を用いた.また,動作能力としてRoland-Morris Disability Questionnaire(RDQ)を用いた.セルフ・エフィカシーは運動セルフ・エフィカシー尺度を用いた.身体機能としてFFDおよびハンドヘルドダイナモメーターによる腹筋,背筋の等尺性筋力を測定した.統計解析には,1)LDH群とLCS群の比較は対応のないt検定,Mann-WhitneyのU検定を用いた.2)腰椎変性疾患患者のQOLの特性を明らかにするため各評価との関連性に対しPearsonの相関係数を求めた.また,ステップワイズ法による重回帰分析を用いてQOLの影響因子を探索した.統計学的分析にはSPSS19.0を使用し,有意水準を5%とした.【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は,ヘルシンキ宣言に則り対象者に本研究の趣旨および目的,結果の取り扱いやプライバシー保護について十分な説明を行い同意を得た.【結果】 1)SF-36の下位尺度全てがLDH群、LCS群ともに国民標準値を下回っていた。両群の比較では、SF-36の下位8尺度およびサマリースコア,RDQ,運動セルフ・エフィカシーには有意差は認められなかった.手術時年齢はLDH49.0±19.1歳,LCS67.9±12.9歳であり,FFDはLDH14.7±15.8cm,LCS4.3±9.3cmであり有意差が認められた(手術時年齢p<0.01,FFDp<0.05). 2)SF-36のPCS,RCSおよび全下位尺度はRDQと有意な負の相関が示された(r=-0.328~-0.640,p<0.05).下位尺度のうち,「活力」と「心の健康」は腹筋,背筋とも正の相関が示された(r=0.419~0.629,p<0.05).MCSは腹筋,背筋,FFDのみ正の相関が示された (腹筋r=-0.503,背筋r=0.419,FFD=0.305,p<0.05).重回帰分析の結果,PCSを従属変数としたモデル(R²=0.252)ではRDQが抽出された(β=-0.502).MCSを従属変数としたモデル(R²=0.503)では腹筋(β=0.617),運動セルフ・エフィカシー総得点(β=-0.349),FFD(β=0.296)が抽出された.【考察】 LDHはLCSと比較して若年者において罹患しやすいという特性に応じて手術時年齢に有意な差がみられた.しかし,FFDを除いて,動作能力やQOL,セルフ・エフィカシー低下の違いはみられなかったことから,術前の能力低下やHRQOL低下は腰椎変性疾患として共通した特性であることが示唆された. HRQOLの低下は動作能力の低下と関連性があり,特にPCSはRDQが関連因子として認められた.一方,MCSは身体機能および自己効力感が関連因子として認められた.このことは術前のHRQOLに合わせて理学療法介入標的を同定する重要性を示していると考える.【理学療法学研究としての意義】 腰椎変性疾患はHRQOLに及ぼす影響が他疾患より大きいといわれている.腰椎変性疾患患者のHRQOLに寄与している因子を明確にすることは重要である.術前の疾患特性を明らかにすることで術後に介入する際の手がかりを提示すると考えられる.

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© 2013 日本理学療法士協会
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