抄録
【はじめに、目的】人工膝関節置換術(TKA)後の理学療法はクリニカルパスの導入などにより画一的な介入が行え、比較的安定した術後成績が報告されている。さらに、TKA術後理学療法は、可及的早期に関節可動域や筋力、その他の日常生活動作能力を獲得することで人工膝関節の機能を最大限獲得させることが重要であるとされている。これまで当院の術後プログラムでは、術翌日より離床を開始し、術側膝関節の運動療法はドレーン抜去後のTKA2日後から開始していた。しかし近年、在院日数が短縮しており、術後3週での退院を目標とする中で、自宅退院時に疼痛の残存や関節可動域、筋力などの回復が不十分な症例が少なくなかった。そこで、TKA術当日から術側膝関節の運動療法介入を開始することにより、関節可動域などの術後経過が改善するのではないかと考え、検証したので報告する。【方法】対象は平成24年4月から10月までに当院にて初回TKAを施行し、術前に本研究への参加に同意した22名とした。エクセルのランダム関数を用いて対象者を早期リハ群12名と標準リハ群10名に分類した。術後入院中に内科治療目的に転科した1名と、重度術後せん妄でコミュニケーションが十分とれなかった1名は除外した。残る20名(早期リハ群11名、標準リハ群9名)は術前から退院時までフォローすることができた。全例診断名は変形性膝関節症であり、平均年齢に群間で差は認めなかった。早期リハ群は、術後4時間以内に初回理学療法を開始し、ドレーン抜去までの期間は膝関節伸展運動と大腿四頭筋セッティング運動とした。ドレーン抜去後は膝関節の屈曲運動や筋力強化運動を開始した。一方、標準リハ群は、術後2日目より運動療法室にて関節可動域運動や筋力強化運動などの運動療法を開始した。座位開始などの離床は、主治医や看護師とともに実施する為、両群とも同一時期に行った。また、術後2日目以降の理学療法の内容や実施時間は群間で違いなく、各症例の状態を評価しながら実施した。膝関節屈曲及び伸展可動域は理学療法開始時に毎回測定し、特に膝関節伸展可動域は背臥位で踵部の下に枕を置き下肢の自重のみで膝関節が伸展する角度と規定した。検討項目は術後3日、7日、14日及び退院時の膝関節屈曲・伸展可動域と、術中及び術後出血量、退院時の平地歩行時疼痛及び階段昇降時の疼痛Numerical Rating Scale(NRS)とした。統計はunpaired t-test及びMann-Whitney U-testを用い、有意水準を5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は福井大学倫理審査委員会の承認を得ており、対象者には事前に十分説明し、同意を得て行った。【結果】術後在院日数や術中出血量、術後出血量に関しては早期リハ群と標準リハ群で有意差を認めなかった。早期リハ群の膝関節屈曲可動域は、標準リハ群と比較して術後3日、7日、及び退院時において有意に高い値を示した。また、膝関節伸展可動域は術後3日時に早期リハ群が標準リハ群と比較して有意に高い値を示していた。また、退院時に膝関節伸展制限が10°以上残存した症例は、早期リハ群で1名、標準リハ群で4名であった。退院時の歩行時及び階段昇降時のNRSは群間に有意差は認めなかったが、早期リハ群においてNRSが低下する傾向にあった。【考察】TKA術後関節可動域の獲得には、術前の関節可動域や疼痛、コンポーネントの設置角度など様々な要因が指摘されている。本研究結果より、術後早期からの膝関節伸展運動は早期に良好な伸展可動域を獲得できるのみでなく、退院時の屈曲可動域も改善させる可能性が示唆された。その要因として、術直後から伸展運動を開始することにより疼痛が増悪する前にある程度の伸展可動域を獲得できたこと、伸展可動域獲得後は屈曲可動域獲得のための理学療法に時間を確保できたこと、術直後の初回理学療法時には疼痛感覚がないため筋緊張の影響を除外した伸展可動域やend feelを感じたことがその後の理学療法施行時に良い指標となっていたことなどが推察された。対象者数が少ないためさらなる検証が必要であるが、早期に関節可動域を改善させていくためにTKA術後理学療法プログラムを再考していく必要があると考えられた。【理学療法学研究としての意義】TKAは安定した長期成績と除痛効果から変形性膝関節症疾患患者の生活の質(QOL)向上に貢献しているとされているが、術後理学療法の効果を検証した報告は少ない。本研究は、術後数時間以内から運動療法を開始することで、早期の関節可動域獲得に貢献できる可能性を示しており、理学療法研究として非常に意義が高いと考える。