抄録
【はじめに、目的】慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease,COPD)とは,気道の炎症性の狭窄や肺胞の破壊が生じ,換気機能やガス交換障害など,様々な障害を呈する.代表的な症状としては,慢性的な咳や痰,労作時の息切れであり,更に進行すると呼吸困難のために日常生活が制限される,慢性的な進行性疾患である.COPDにおける呼吸リハビリテーションの効果として,運動耐容能の改善や呼吸困難感の改善,不安・抑うつの軽減がエビデンスレベルAとされている(Rise AL, et al,. 2007).慢性閉塞性肺疾患患者において息切れや呼吸困難によりPhysical Inactivity(PI)状態になりやすいとされており,その評価として,3軸加速度計を用いて身体活動量を測定する方法が多く用いられている.健康関連QOLにおいて従来St. George respiratory questionnaire(SGRQ)が使用されてきたが,近年簡便に使用可能な自己記入式の質問紙表である,COPDアセスメントテスト(以下CAT)が使用されるようになってきている.しかし,COPD患者においては,活動量と運動耐容能,健康関連QOLについて検討した研究は少ない.本研究の目的は,外来呼吸リハビリテーション前後における,運動耐容能とQOL変化,活動量変化との関連を明らかにすること.【方法】当院に外来通院中のGOLD stage2~4期の安定期のCOPD患者で,運動を制限する他疾患のない,18例(男性17例 女性1例 年齢72.8±7.2歳)を対象とした.呼吸リハビリテーションを介入時より,活動量評価としては3軸加速度センサー(アクティマーカー)を使用した.評価はリハ介入時と介入後12週以降とし,運動耐容能の評価として6分間歩行距離(以下6MWD),健康関連QOLの評価としてはSGRQとCATを使用した.活動量の測定期間は約1~2週間,入浴時以外の24時間を計測,1週間の身体活動数(PAL)を算出した.統計処理にはSPSSを使用し,身体活動指数と運動耐容能,健康関連QOLの項目の変化量をピアソンの相関係数を用いて検定を行い,有意水準を5%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】すべての対象者に本研究の評価の趣旨と方法や、個人情報保護に関して説明し,同意の得られたもののみを対象とした.【結果】呼吸リハ介入前後における,身体活動指数と6MWDおよびSGRQ(Total score,Symptoms score,Activity score),CATの変化量とに有意な相関は認めなかった.しかしSGRQのImpacts scoreの項目に有意な負の相関がみられた(r=-0.6,p<0.05).運度強度別での結果では,CATとの相関は認めなかったが,1.5METS以上,2.0METS以上の運動強度においてSGRQのImpacts scoreの項目に有意な負の相関がみられた(r=-0.5,p<0.05).【考察】今回,COPD患者の呼吸リハ介入前後において運動耐容能と活動量に関係は認められなかった.これにより,呼吸リハによる運動耐容能の向上により,必ずしも身体活動量が確保できているとは限らず,運動耐容能と活動量を,別々に評価することが必要であると考える.身体活動量とSGRQについてはImpacts scoreの項目とに関連があった.運動強度においても1.5METS以上,2.0METS以上の運動強度においてSGRQのImpacts scoreの項目に関連を認めた.SGRQのImpacts score とは精神心理面を反映する項目である.不安や抑うつはCOPDを含む慢性疾患において高頻度に認められる症状であり(Solano JP, et al,. 2006),抑うつとCOPD急性増悪の関連について(C. Laurin, et al,.2008)や,抑うつ症状は安定したCOPD患者において,その後の死亡率を増悪させる(Jacob N, et al,.2009)といった報告がある.1.5METS~2.5METSの運動強度とは座位やゆっくりとした歩行を中心とした低強度の運動である(Ainsworth BE, et al,. 2000).低負荷での運動療法の利点として,抑うつの改善や在宅での継続が良いことであり,低強度運動習慣の獲得が,不安・抑うつなどの軽減に関係する可能性が示唆された.また,運動療法による不安・抑うつなどの軽減が,低強度の運動習慣の獲得,身体活動量の増加へとつながる可能性が示唆された.身体活動量はCOPD患者における死亡原因の最大予測因子である(Waschki B, et al,. 2011)と報告もあることから,COPD患者における身体活動量を増加させる工夫が必要であると考える.【理学療法学研究としての意義】近年,COPD患者のPIが問題として取り上げられるようになっており,注目すべき項目である.本研究により,COPD患者に対する身体活動量の獲得や不安・抑うつの軽減には低強度での運動指導や,動作指導などが有効である根拠の一助となった.