抄録
【はじめに】平成24年4月より介護報酬が改定され、訪問看護ステーションからの理学療法士の訪問は時間区分、介護報酬の改正がなされた。それに伴い各訪問看護事業者では、訪問時間・内容の見直し検討や利用料変更の説明が利用者・家族、居宅介護事業者等へ行われ、現在に至っている。そこで今回、平成23年度前期(4月~9月)と平成24年度前期(4月~9月)との訪問件数の推移をまとめ、利用者・ご家族に訪問時間と内容についてのアンケートを実施し、現在の満足度と今後の対応について検討、考察する。【方法】対象は、平成24年8月現在、当訪問看護ステーションより訪問を実施している利用者28名。期間は平成24年7月30日~8月17日の19日間とした。方法は、アンケートにより実施時間の満足度・リハビリ内容の満足度・希望のリハビリ時間・希望のリハビリ頻度・希望のリハビリの内容(複数回答可)の5項目について聴取した。【倫理的配慮】当研究はヘルシンキ宣言に基づく倫理的原則に配慮し、被験者に研究の目的、方法を口頭、書面にて説明し、同意を確認した。また埼玉成恵会病院倫理委員会の承認を受け実施した。【結果】訪問件数は平成23年度前期(4月~9月)月平均106件(30分未満の訪問16件、60分未満の訪問50件、医療保険での訪問40件)。平成24年度前期(4月~9月)月平均117件(40分の訪問64件、60分の訪問6件、医療保険での訪問47件)であった。アンケート回収率は89%であった(28件中25件回収)。実施時間に関しては、満足76%、やや満足16%、その他8%であった。リハビリ内容に関しては満足60%、やや満足32%、その他8%であった。希望のリハビリ時間は20分0%、40分52%、60分44%、その他4%であった。希望のリハビリ頻度は週1回76%、週2回20%であった。希望のリハビリ内容は、筋力体力の維持向上の運動76%、関節の運動・ストレッチ64%、歩行練習52%、痛みしびれの緩和28%、生活・リハビリ相談20%、具体的な生活動作の練習12%、言語リハビリ24%、食事のリハビリ12%であった。【考察】当施設の理学療法士の訪問は平成23年度前期と平成24年度前期を比較すると、一件当たりの訪問時間の減少と訪問件数の上昇が見られている。これは介護報酬改正に伴い、利用料金の変更による他介護保険サービスとの兼ね合いや、当訪問看護ステーションの方針で、40分での訪問を基本としたことで、60分未満の訪問から40分の訪問へ変更となり時簡短縮となった利用者が多かったためである。アンケートでは、この時間短縮となった利用者から不満の声が多く聞かれるのではと考えていた。しかし、実施時間の満足度は高い結果が得られ、現状の訪問時間・内容が適切であることが示唆された。一方で、希望の訪問時間では60分を希望する利用者も多く、このことから現状に満足はしているが、60分の訪問を希望し、筋力体力の維持向上運動や関節・ストレッチ、その他歩行練習やADL練習、相談といった様々な理学療法を追加して希望している利用者が多いことが分かった。また複数の希望内容が聴取され、これは在宅での生活を継続するうえで、理学療法士の役割が多岐にわたって求められていることも示唆された。現在、理学療法士は全国で10万人と急激に増加している。一方で在宅へ訪問する理学療法士の数は人と近年増加はしているがその増加は決して十分とは言えない現状である。その中で、現在在宅へ訪問リハビリとして療法士へ課せられているのは、介護報酬の改定からも推察されるが、短時間での効率的な在宅リハビリである。このためには実際の訪問中に利用者・家族からのニーズの聴取や検討が必要になる一方で、今回のようなアンケート調査も必要ではないかと思われる。また、希望時間60分が多いことや多岐にわたる希望内容から、現代社会の在宅生活者は理学療法士をはじめとした療法士の訪問業務を様々な面で望んでいることが分かる。この希望に対して、在宅での関わりやその考え方を多くの療法士が学ぶ必要性があり、またその教育が今後の理学療法士には必要と考えられる。理学療法士の役割は、現代日本社会において多様化しており、その中で専門性や地域性を兼ね備えたプロフェッショナルな理学療法士が求められていることを再認識した。【理学療法学研究としての意義】平成24年度介護保険改正における、訪問看護ステーションからの理学療法士の訪問のあり方と訪問時間・内容についての妥当性を検討し、今後の介護報酬改定、介護保険法の改定改正へ向けての利用者の希望するリハビリ、満足の得られるサービスの提供のための体制づくりの一助とする。