抄録
【はじめに】平成24年度の介護報酬改定により、通所リハ施設におけるリハビリテーションマネジメント加算の算定要件として利用開始後1ヵ月までの間に利用者の居宅を訪問することが義務づけられ、日常生活の状況や家屋環境を確認し、在宅生活を想定したリハビリテーション(以下、リハ)を提供することが重視されるようになった。今回、居宅訪問指導時の理学療法士(以下、PT)の対応や実施内容に対する満足度を把握し、今後のサービス提供の指標を得る目的でアンケート調査を実施した。当施設での居宅訪問指導の実施状況と利用者へのアンケート調査の結果に若干の考察を加え報告する。【方法】対象は、平成24年4月以降の当施設の新規利用者で居宅訪問指導を実施した38名(男性17名、女性21名、年齢80.5±8.8歳、要介護度2.1±1.0)とした。対象者にアンケート用紙を配布し無記名で回答を得た(回収率68%)。内容は、居宅訪問指導についての満足度やその理由などを問う5項目とした。当施設では通所リハ利用開始時、担当者会議にPTが同行し、ケアマネージャー立会いの下居宅訪問指導を実施している。内容は「身体機能やADLの評価」「住環境の評価」「動作の指導」を実施し、必要性に応じて「家族への介助指導」「住宅改修や福祉用具の提案」をしている。居宅訪問指導の実施内容について、当施設で独自に作成している評価用紙および通所リハ記録から後方視的に調査した。通所リハ利用開始前の入院の有無による居宅訪問指導の実施内容の差異を検討するため、対象を退院後3ヵ月以内に当施設の利用を開始した者20名(以下、退院後利用者)と、非該当者18名(以下、在宅利用者)に分けクロス集計した。退院後利用者の退院から利用開始までの平均日数は24.0±24.7日であった。在宅利用者の内訳は、外来リハからの移行が4名、訪問リハ2名、デイサービス4名、リハや通所系のサービス利用なし8名であった。【説明と同意】対象者には今回の調査目的を説明し、書面にて同意を得た。【結果】居宅訪問指導に対する満足度は、「非常に満足」「満足」が全回答者の85%、「どちらともいえない」が12%、無回答が3%で、「不満」と回答した者はいなかった。満足している項目(複数回答)として、上位5項目は「PTの対応が良かった」62%、「身体機能やADL評価」54%、「動作指導」50%、「PTに自分の状態を理解してもらえた」46%、「事前にPTに会うことで安心感がある」42%であった。居宅訪問指導により福祉用具を導入(変更)した者は、退院後利用者では67%(12名/20名)であり、在宅利用者の10%(2名/18名)と比較し高かった(χ2検定 p<0.05)。住宅改修の実施状況は退院後利用者で28%(5名/20名)、在宅利用者で10%(2名/18名)であった。【考察】今回の調査では、当施設利用者の居宅訪問指導における満足度は高かった。平成22年度の理学療法士協会の調査によると、介護保険でリハを受けている人の約半数が、医療保険から介護保険のリハへ移行した際に不安を感じたと回答している。今回、居宅訪問によりPTが利用者や家族のニーズを把握し、具体的に今後のリハについて説明したことが、利用者が抱える介護保険でのリハに対する不安の解消に役立ち、居宅訪問指導に対する利用者の満足感に繋がったと考える。また、退院後利用者では、居宅訪問指導により福祉用具を導入(変更)した割合が、在宅利用者と比較し高かった。今回、退院後利用者の多くで入院中に退院前訪問指導が実施されていない現状があり、環境や活動量の変化により、入院中に予測された在宅生活と退院後の生活に相違があったことが要因と考える。病棟での限定された生活から居宅への急激な環境変化に対応し、在宅生活へとソフトランディングさせるためには通所リハ施設における居宅訪問指導が有効な手段になり得ると考えた。PTも実際の居宅での生活習慣や動線を把握することで、具体的なリハの目標やプログラムの設定が可能となり居宅訪問の重要性を再認識した。高齢者では様々なイベントがきっかけで生活が一変することも多く、通所リハ利用開始時のみならず、サービス開始後も利用者の状態変化に応じて必要性を判断し、居宅訪問指導を実施していくことが重要と考える。今回の調査では、利用者はリハ専門職に直接会い、自身の身体および生活状況を理解してもらうことへの満足度が高く、加えて退院後利用者では住宅改修や福祉用具の導入が必要なケースも多く、調査結果を踏まえ、利用者のニーズに沿ったサービスを提供していきたいと考える。【理学療法学研究としての意義】医療保険から介護保険のリハへの円滑な移行のためには、居宅訪問指導が有用であることが示唆された。