理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: A-P-04
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ポスター発表
加齢に伴う筋肉量の減少とアラキドン酸長期摂取の関係
井上 隆之橋本 道男片倉 賢紀田邊 洋子Abdullah Al Mamun松崎 健太郎大谷 浩紫藤 治
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キーワード: 加齢, 筋肉量, アラキドン酸
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抄録
【目的】アラキドン酸(20:4n-6, arachidonic acid; AA)は,ドコサヘキサエン酸(docosahexaenoic acid; DHA)とともに,細胞膜リン脂質を構成する主要な多価不飽和脂肪酸であり,中枢神経機能の発現および維持に重要な役割を果たすと考えられている。一方でAAは,炎症性エイコサノイドの前駆物質である事から,過剰なAAの摂取がAAカスケードを亢進させ,炎症性疾患などの疾病を誘発する可能性がある。加齢に伴う骨格筋の委縮は,加齢に伴い増加する酸化ストレスの関与が推察されるが,その詳細については不明である。高齢者の筋肉減少症の発症や進行には,加齢に伴う筋肉内代謝酵素活性やミトコンドリア機能の低下などが複合的に関与すると考えられる。本研究では,AA長期投与による加齢ラット骨格筋に及ぼす影響を解析した。【方法】F-1 魚粉抜き固形飼料で2 世代飼育したWistar系雄性ラット(21 カ月齢)を,AA中性脂肪型投与群(AA群(n=6))と対照基礎混合油投与群(コントロール群(n=6))の2 群に分けた。13 週間にわたる経口投与(240 mg/kg BW/day)の後にペントバルビタールで麻酔後,腹部大静脈より採血しヒラメ筋(遅筋)と長指伸筋(速筋)を摘出した。血漿,および筋肉中の総脂質中の脂肪酸組成をガスクロマトグラフィーにより定量し,過酸化脂質量(lipid peroxidation: LPO)および活性酸素種(reactive oxygen species: ROS)を測定した。また,ヘマトキシリン−エオジン染色によりその形態を観察し,免疫組織化学により筋線維タイプの違いによる影響を組織学的に観察した。2 群間のデータ比較には対応のないt 検定を,相関解析にはPearsonの積率相関係数を用いた。統計学的有意差判定基準は5%未満とした。【倫理的配慮】本研究は所属する大学の総合科学研究支援センター動物実験指針に従い,動物実験専門部会の承認のもとで実施した。【結果】AA群速筋において,AAが有意に増加しリノール酸とDHA/AA比が低下した。AA群速筋においてROSが増加した。一方,遅筋においてAA量は両群間で変化が認められなかったが,DHAとDHA/AA比はAA群で有意に低下しLPO が増加した。血漿においては,AA群のAAと不飽和度指数が増加しパルミチン酸,リノール酸,およびエイコサペンタエン酸は有意に低下した。AA群のLPOは有意に増加した。二変量相関解析では,血漿AAと速筋AAの間で正の相関を示した。また血漿LPOおよび速筋ROSと速筋DHA/AA比の間でそれぞれに有意な負の相関が認められた。組織学的観察では,AA群速筋の単位面積当たりの筋細胞が占める面積(速筋細胞/筋面積比)が有意に減少し,slow myosin heavy chain 陽性細胞数が有意に増加した。二変量相関解析では,速筋細胞/筋面積比と血漿AAおよび速筋AAの間でそれぞれに有意な負の相関が認められた。【考察】本研究において,加齢ラットへのAA長期投与は血漿と速筋のAAならびに速筋のROSと遅筋のLPOを増加させた。また,血漿AAと速筋AAの間で有意な正の相関が,血漿LPOおよび速筋ROSと速筋DHA/AA比の間でそれぞれに有意な負の相関が認められたことから,AA長期投与ラットでは骨格筋の酸化ストレスが増大することが示唆された。酸化ストレスの増大は細胞膜障害を引き起こすことが推察されることから,形態的観察を行ったところ,速筋の筋細胞の委縮が有意であり,速筋細胞/筋面積比と血漿AAおよび速筋AAの間でそれぞれに有意な負の相関が認められた。筋線維別に加齢の影響を調べた研究の結果では,遅筋線維よりも速筋線維の方が萎縮しやすい傾向にあることが示されており,AA長期投与は加齢ラット速筋の委縮を促進することが示唆された。AAは中枢神経機能の発現および維持に重要な役割を果たすと考えられているが,その長期摂取は加齢骨格筋の酸化ストレスを増大させ,運動機能を低下させる可能性が示唆される。【理学療法学研究としての意義】理学療法の対象者は,加齢による生体機能変化により,低栄養状態である場合も多くあると考えられる。高齢者の筋肉減少症の発症や進行には,加齢に伴う筋蛋白合成能の低下,筋肉内代謝酵素活性の低下,日常生活活動度の減少などが複合的に関与する。しかし,骨格筋量の減少は,適切な栄養治療や運動療法により十分に回復する可能性を残した可逆性変化であり,骨格筋量の変化を正確に評価し適切な栄養指導を行うことは,高齢者の健康維持や自立障害の予防,生活の質の向上に役立つ。
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© 2013 日本理学療法士協会
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