抄録
【はじめに、目的】脳卒中片麻痺患者における歩行安定性の評価では,速度,持久性,恒常性の3要素を具備すべきとされている.現在,速度や持久性に関しては評価指標が数多く報告されているが,恒常性に関しては評価指標が確立されていない.近年では,恒常性を示す指標として重複歩時間変動性(stride time variability:STV)が注目されており,STVは自然歩行中の歩行リズムのばらつきを示し,高齢者においては歩行能力の評価や転倒予測に有用であることが報告されている.そこで,本研究では脳卒中片麻痺患者を対象とし,STVと歩行自立度,他の評価指標との関連性を調査し,その有用性を検討することを目的とした.【方法】対象は,当院に入院し,本研究への参加の同意が得られ,病棟内の移動手段として歩行を導入している脳卒中片麻痺患者40名(男性25名,女性15名.65.0±12.0歳)とした.さらに対象群を病棟内歩行が自立している群(自立群:17名)と自立していない群(非自立群:23名)の2群に分類した.歩行評価として,小型三軸加速度センサー(Freescale Semiconductor,MMA7260Q,±6[G])を非麻痺側下肢のつま先に取り付け,14m直線歩行路(加減速路各2m含む)を快適速度にて歩行した.全ての試行で測定された重複歩時間から平均値と標準偏差を求め,STVの指標として重複歩時間変動係数(以下,重複歩CV [標準偏差/平均値×100])を算出した.また,その他の評価指標として,10m最大歩行速度,Berg Balance Scale(以下,BBS),麻痺側・非麻痺側脚伸展筋力を測定した.脚伸展筋力の評価には,Strength Ergo 240(三菱電機)を用いた.統計学的処理は,自立群と非自立群との各パラメーターの比較を対応のないt検定,重複歩CVと10m最大歩行速度との関連をPearsonの相関係数,BBS,脚伸展筋力との関連をSpearmanの相関係数を実施し求めた.尚,有意水準はそれぞれ5%未満とした.また,散布図から重複歩CVと歩行自立度,他の評価指標との関連性を検討した.【倫理的配慮、説明と同意】対象者について本研究の主旨について十分に説明し,研究内容の理解が得られた上で,書面上での研究協力の承諾を得た.尚,計測中は常に補助者が付き,転倒等の危険性に配慮した.【結果】本研究の結果,自立群の重複歩CVは3.0±1.8%,非自立群では10.4±10.0%であり,有意差を認めた(p<0.01).また,10m最大歩行速度(p<0.01),BBS(p<0.01),麻痺側伸展筋力(p<0.01),非麻痺側伸展筋力(p<0.05)にも有意差を認めた.また,重複歩CVは10m最大歩行速度(r=-0.71,p<0.01),BBS(ρ=-0.69,p<0.01),麻痺側脚伸展筋力(ρ=-0.56,p<0.01)に有意な相関を認めた.歩行自立度,他の評価指標との関連について,重複歩CVが5%以上の者では1例を除き,歩行非自立者であった.また,重複歩CVが5%未満の者では,自立群と未自立群が混在しており,その内歩行自立者は全例において,10m最大歩行速度が37m/s以上,BBS50点以上,麻痺側脚伸展筋力0.7N・m/kg以上であった.【考察】自立群と非自立群との間に重複歩CVは有意差を認め,歩行能力が低いものでは歩行リズムがばらつくことが示唆された.また,10m最大歩行速度やBBSは歩行能力を反映する指標であるとされ,麻痺側脚伸展筋力は立脚期の安定性に寄与し,歩行速度を規定する因子とされている.本研究では,重複歩CVと10m最大歩行速度,BBS,麻痺側脚伸展筋力との間に相関を認めたことから歩行能力を判断する際のパラメーターとして有用であることが示唆された.歩行自立度の判断においては,重複歩CVが5%以上では歩行非自立と判断可能だが,5%未満では自立群と非自立群が混在しており,他の評価指標と併せて検討する必要があると考える.【理学療法学研究としての意義】脳卒中片麻痺患者の歩行評価における恒常性の指標に関しては,確立されていないのが現状である.本研究で歩行パラメーターとしてSTVの有用性が検討されることで,歩行能力の評価指標において一つの判断因子となり得ると考える.