理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: C-P-25
会議情報

ポスター発表
膝前十字靭帯再建術後患者の膝伸展筋力と経過日数との関係性
長谷川 敏史舌 正史小野 誠長野 真南 銀次郎原 邦夫
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

【はじめに、目的】計測時の運動速度を一定に保つ等速性筋力測定装置は様々な角速度を設定することにより筋の力‐速度関係を把握する事ができるとされ術後や受傷後のスポーツ復帰の指標として等速性膝伸展筋力が用いられている.その評価としては,ピークトルクを体重で除することで求められるピークトルク体重比(以下体重比)が用いられている.1989年原らは競技復帰の目安として前十字靱帯(以下ACL)再建術後の筋力が角速度60deg/sec短縮性膝伸展筋力(以下60°筋力)で2.5Nm/kg,180deg/sec短縮性膝伸展筋力で1.5Nm/kgを越えた時期であろうとしている.2009年4月に当院でもCYBEXを導入し体重比を用いて術後評価を行っており,上記の条件を競技復帰時の目標としている.しかし健側,患側共に個人差が大きく,年齢や体重,競技レベルなどの要素が影響すると考えられる.今回ACL再建術後患者の筋力を筋力測定時の術後経過日数をもとに検討した結果若干の知見を得たので報告する.【方法】対象者は当院で2007年7月から2012年10月の間にACL再建術を行った830名のうち当院で筋力測定が可能であった男性患者で計測時の経過日数が5か月以上である166名を対象とした.計測時の術後経過日数は7.2カ月±3.2であった.方法はCYBEX NORM(メディカ株式会社製)を用いて等速性膝伸展筋力を測定した.測定項目は角速度60deg/secにて5回の反復運動を行わせた.運動中に計測されたピークトルクを採用し体重で除した値を体重比とした.採用した記録は,対象者の60°筋力が初めて2.5Nm/kg以上を記録した日とし,2.5Nm/kg未満の対象者は最終計測日とした.計測した60°筋力と経過日数をもとに4群に分類した.A群:患側60°筋力が2.5Nm/kg以上で計測時の経過日数が190日未満である群(以下良好群:66名).B群:患側60°筋力が2.5Nm/kg以上で計測時の経過日数が190日以上である群(以下筋力回復遅延群:31名).C群:患側60°筋力が2.5Nm/kg以下で健側60°筋力が2.5Nm/kg以上である群(以下筋力改善不良群:44名).D群:患側60°筋力が2.5Nm/kg以下で健側60°筋力も2.5Nm/kg以下である群(以下筋力不足群:24名).各群における経過日数,体重,健側60°筋力,患側60°筋力を一元配置分散分析を用いて検討し,その後の検定としてTukeyの多重比較検定を行った.有意水準は5%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に基づき対象者の同意を得たうえで行っている.【結果】術後経過日数は,良好群1.6ヶ月±0.91,筋力改善遅延群9.58ヶ月±3.20,筋力改善不良群8.42ヶ月±3.24,筋力不足群8.15ヶ月±3.17であった.体重は良好群68.5kg±9.72,筋力回復遅延群67.1kg±8.02,筋力改善不良群71.1kg±10.3,筋力不足群74.7kg±13.2であった.健側60°筋力は良好群299.0Nm/kg±30.93,筋力回復遅延群285.4Nm/kg±28.75,筋力改善不良群278.7Nm/kg±23.28,筋力不足群218Nm/kg±32.90であった.患側60°筋力は,良好群276.5Nm/kg±24.54,筋力回復遅延群270.5Nm/kg±19.13,筋力改善不良群221.8Nm/kg±23.80,筋力不足群202.7Nm/kg±36.59であった.経過日数は,良好群のみ他の群間と有意差(p<0.05)を認めた.体重は,筋力不足群と筋力回復遅延群間に有意差(p<0.05)を認めた.健側60°筋力は筋力不足群と他の群間,筋力改善不良群と良好群間に有意差(p<0.05)を認めた.患側60°筋力は,良好群と筋力回復遅延群間のみ有意差を認めなかったが他の群間では有意差(p<0.05)を認めた.【考察】今回の結果により良好群は他の群と比較し経過日数が短い結果となった.他の群を考えると筋力回復遅延群は良好群と比較し筋力に差が見られないためリハビリテーション継続により筋力の改善が見られたものと考える.筋力改善不良群は,筋力回復遅延群と比較しても経過日数に差がないため,患側の筋力が改善することで目標値達成が可能な群であり術後の筋力低下の影響を最も受けた群であるといえその後筋力回復遅延群へ移行すると思われる.しかし,良好群と比較すると健側筋力においても低値を示したため健側筋力が低い者は患側筋力の回復が遅延することが示唆された.筋力不足群は,どの群と比較しても筋力の低い群であるといえ術後早期より患部外トレーニングを十分に行い基礎体力向上が競技復帰に向け最大の問題点である群といえる.しかし,今回の研究においては競技レベル等の個人因子については検討していないため,各群に分かれる原因の追究が今後の課題であるといえる.【理学療法学研究としての意義】術後患者を経過日数と筋力にて分類することで各群の問題点が明らかとなった.早期復帰に向け術後理学療法を行うに当たり個々に応じたプログラムを展開するうえで重要な知見であるといえる.

著者関連情報
© 2013 日本理学療法士協会
前の記事 次の記事
feedback
Top