理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: C-P-25
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ポスター発表
膝前十字靭帯損傷患者の重心動揺と膝周囲筋力の特徴について
渡邉 博史梨本 智史古賀 良生佐藤 卓大森 豪田中 正栄
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抄録

【目的】膝前十字靭帯(以下ACL)損傷患者は、関節固有感覚の破綻が生じ重心の動揺性が増加するため、バランス保持能力が低下すると報告されている。また、損傷予防において膝周囲筋では、伸筋力と屈筋力とのバランスが重要と指摘されている。今回、ACL損傷患者の静的重心動揺と膝周囲筋力を健常膝と比較し、ACL損傷患者の特徴を検討したので報告する。【対象】ACL片側受傷患者(ACL群)43名:女性22名(13-49歳、平均22.0±11.1歳)、男性21名(15-47歳、平均27.5±10.1歳)と膝疾患の既往がない健常成人(対照群):男性9名(21-33歳、平均27.4±4.6歳)18膝を対象とした。【方法】全対象者に対し、重心動揺計(GRAVICORDER GS-11 ANIMA社製)で、閉眼片脚立位10秒間の測定を行った。膝周囲筋力は、BIODEX SYSTEM 4(BIODEX社製)で角速度60deg/secと180deg/secの等速性膝伸展および屈曲筋力を測定した。評価項目を重心動揺では、総軌跡長、外周面積、左右・前後方向の動揺中心変位(以下左右変位、前後変位)とし、膝周囲筋力では、伸筋および屈筋の最大トルクを体重で除した値(以下膝伸筋力、膝屈筋力)と膝伸筋力に対する膝屈筋力の割合(H/Q比)とした。これらの項目について、ACL群内で受傷側と非受傷側とを比較した。また男性ではACL群と対照群を比較した。統計的解析は対応のないt検定を用い、有意水準を5%未満とした。【説明と同意】本研究は対象者に研究の趣旨を十分に説明し同意を得て行った。【結果】ACL群内の受傷側と非受傷側の比較で、重心動揺は前後変位のみ差を認め、受傷側1.3±1.3cm、非受傷側0.7±1.5cmで受傷側が有意に大きかった。膝周囲筋力は60deg/sec 、180deg/secとも膝伸筋力とH/Q比で差を認め、受傷側の膝伸筋力が有意に小さく、H/Q比は有意に大きかった。膝屈筋力は有意差を認めなかった。次にACL群と対照群の比較では、重心動揺は受傷側および非受傷側とも全ての項目において有意差を認めなかった。膝周囲筋力は、対照群に比して受傷側では、60deg/sec の膝伸筋力と180deg/secの膝伸筋力と膝屈筋力で差を認め、受傷側が膝伸筋力、膝屈筋力とも有意に小さかった。非受傷側では60deg/secの H/Q比のみ差を認め、非受傷側42.5±9.7%、対照群48.6±6.9%で対照群が有意に大きかった。【考察】今回の結果、受傷側では膝伸筋力が非受傷側および対照群に対し全ての項目で有意に小さく、膝屈筋力は差を認めた項目が少なかったことから、ACL損傷患者の損傷後における受傷側の筋力低下は、膝伸筋力への影響が大きいことが示唆された。また重心動揺では、受傷側が非受傷側に対し有意に前方変位していた。このことからACL損傷患者の損傷後の受傷側は、膝屈筋優位の姿勢制御をしていると示唆された。これは脛骨の関節面が後方傾斜しており、静的な立位でも後方重心の姿勢では、膝伸展モーメントが働くことから、相対的な脛骨の前方移動力が生じ、ACL損傷患者では不安感が大きくなるため、回避姿勢として重心を前方に変位させ膝屈筋優位の姿勢制御をしていると考える。また、受傷後の筋力低下の影響や、非受傷側のH/Q比が対照群に対し有意に小さいことから、受傷側も受傷前はH/Q比が低かった可能性が推察された。ACL損傷予防において、膝屈筋は着地や急激なストップ・ターン動作時に膝伸筋の収縮に伴う脛骨前方引き出し力に抗する拮抗筋で、反射的に緊張して、ACL損傷を防止する重要な機能があり、角速度60deg/secのH/Q比は70%以上が理想と報告されている。今回のH/Q比は、対照群でも50%以下で、ACL群はこれよりさらに低い値であり、このことからACL損傷患者における膝周囲筋力の特徴として、受傷・非受傷側に関係なくH/Q比の低さが挙げられ、損傷要因のひとつとして関与している可能性が示唆された。また再建術後では、非受傷側の筋力を目標にすることも少なくないが、今回の結果から受傷側の筋力回復だけでなく、非受傷側を含めた筋力バランスにも着目する必要性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】ACL患者の姿勢や筋力のバランス特性を理解することは、損傷予防や再建術後の理学療法において重要と考える。今後は女性の対照群を追加し、男女別に検討を行っていく。さらに再建術後における姿勢や筋力のバランス特性について、経時的な変化を検討していく必要がある。そして、動的なバランス能力との関連へと発展させることが重要である。

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© 2013 日本理学療法士協会
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