理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: A-P-19
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ポスター発表
大脳皮質運動野から入力を受ける赤核ニューロンの上肢運動課題遂行中の活動様式
金子 将也畑中 伸彦南部 篤
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キーワード: マカクサル, 赤核, 慢性実験
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抄録

【はじめに、目的】赤核は中脳にある核の一つであり、細胞構築学的に吻側の小細胞部と尾側の大細胞部に分けられる。これまでの動物実験によって、小細胞部は大脳皮質一次運動野と小脳歯状核から入力を受け、下オリーブ核を経由して小脳と連絡しており、運動学習などへの関与が考えられている。一方、大細胞部は補足運動野や運動前野などの大脳皮質6 野と小脳中位核(栓状核および球状核)と歯状核の一部から入力を受け、赤核脊髄路を介して四肢の運動調節、とくに上肢遠位部の屈筋の制御に関与していると考えられている。ヒトにおいては赤核脊髄路が退化していると考えられてきたが、近年ヒトMRIでの拡散テンソルトラクトグラフィーを使用した研究で、赤核脊髄路が十分分離できる大きさであることや,fMRIを用いた研究で、記憶や自発性などに関連した運動課題において赤核の活動が認められたなど、新しい知見が増えている。われわれは、実際の運動中に赤核ニューロンがどのように活動するのかを解析することを目的とし、運動課題遂行中のマカクザルを用い大脳皮質からの入力源を同定した赤核ニューロンから電気生理学的に神経活動記録を行った。【方法】1 頭のマカクザルに以下のような遅延期間付き上肢到達運動課題を習得させた。2 色LEDを左・中央・右の3 つのターゲットに設置したパネルをサルの顔前におき、手元にホールド部を設定した。サルが1500-2500msのホールドをした後,手がかり刺激(S1)として3 つのうち1 つのLEDが150ms赤色で点灯する。700-1950msの遅延期間後、トリガー刺激(S2)として全ターゲットのLEDが同時に1100ms緑色で点灯する。サルが正しいターゲットに到達運動を行うと報酬を得る。課題は右手で行い、使わない手は固定しておく。サルが十分課題を習得したのちに、頭部を固定するための手術を行い、回復後に一部開頭し左側大脳皮質運動野のマッピングを行った。皮質内微小刺激法で一次運動野上肢近位領域(MIp)、遠位領域(MId)、補足運動野の上肢領域(SMA)を同定し,刺激電極を慢性的に留置した。その後、左側赤核にガラス被覆エルジロイ電極(0.8-1.0 MΩ)を刺入し、単一ユニット記録を行った。赤核ニューロンは慢性埋め込み電極によって大脳皮質性入力源を同定したのち、課題遂行中の活動様式を記録した。【倫理的配慮、説明と同意】本実験は、所属の動物実験委員会の承認を得ている。また、同委員会の承認を受けた実験室、飼養保管施設において、実験、飼育を行った。【結果】赤核と考えられる領域から、39 個のニューロン活動を記録した。これらは大脳皮質の入力部位によって、SMAのみ15 個、MIpのみ2 個、MIdのみ0 個、SMA+MIp 4 個、SMA+MId 5 個、MIp+MId 0 個、SMA+MIp+MId 9 個に分類された。大脳皮質刺激により興奮性(SMAから28 個、MIpから15 個、MIdから12 個)あるいは抑制性(SMAから24 個、MIpから8 個、MIdから8 個)の応答を示した。このうち24 個について運動課題遂行中の活動変化を記録することができた。その結果、7 個が運動に関連して興奮性の活動変化を、4 個が抑制性の変化を、4 個が興奮性と抑制性の混在した活動変化を示した。【考察】本研究において、大脳皮質刺激に対する応答は興奮性だけでなく抑制性の応答も記録された。短潜時の興奮性応答は主に大脳皮質からのグルタミン酸作動性入力であると考えられるが、抑制性応答は赤核内の抑制性介在ニューロンやその他の核からの抑制性入力の可能性を示唆している。運動中の活動変化も興奮性、抑制性、それらの混在した活動変化を示すことから、赤核が運動制御に,より複雑に関与している可能性を示唆している。【理学療法学研究としての意義】ヒトで赤核周囲が破壊されると舞踏運動やアテトーゼに類似した不随意運動が起こることが知られている(ベネディクト症候群)。さらに、ヒトにおいても赤核脊髄路が無視できないとすれば、脳卒中における病態やその後のリハビリテーションを考える上において、赤核の機能を問い直す必要があろう。

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© 2013 日本理学療法士協会
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