理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: A-P-18
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ポスター発表
長下肢装具歩行への聴覚リズム刺激利用の可能性〜健常者における歩幅の変化による検討〜
長谷川 真人西村 由香大家 佑貴
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抄録

【はじめに、目的】聴覚リズム刺激(Rhythmic Auditory Stimulation:以下,RAS)は,主にメトロノームの一定のリズム音を用いて,脳卒中やパーキンソン病患者の歩行練習に利用することができる.RASを用いた歩行練習は,まずRASのリズムを対象者の歩行率に設定し,そのRASで歩容が安定するまで継続する.その後最適歩行が維持可能な範囲でリズムを変調させ,最終的にはRASをなくし,歩容を再評価する方法である.RASに関する研究において,Thautは健常者におけるリズム歩行で腓腹筋の筋電図変動が減少し,脳卒中患者においても腓腹筋の筋電図変動の減少と歩容の改善を報告している.また,装具の使用は脳卒中ガイドラインでも強く勧められており,脳卒中患者の発症早期からの歩行練習には長下肢装具(以下,KAFO)を使用することも多い.RASは脳卒中患者にも有効であるとされているが,装具歩行における報告はない.そこで本研究は,装具歩行にもRASが利用可能かどうか否かを,歩幅を指標に検討することを目的とした.【方法】対象は健常成人16 名(平均年齢22.3 歳)とした.方法は装具装着下の自然歩行(以下,自然歩行)とリズムを変調した歩行の歩幅を測定し比較することとした.RASのリズム(bpm)には電子メトロノームを使用した.自然歩行の歩行率(歩/分)をRASのリズムとするために,初めに30 秒間の直線歩行で歩行率を測定し,自然歩行のRAS歩行を「RASあり」とした.そして自然歩行から10%ずつ増減したリズム増加条件(10%増,20%増,30%増)とリズム減少条件(10%減,20%減,30%減)のリズムを算出した.これらの条件は自然歩行,「RASあり」歩行を行った後,ランダムに施行した.歩行は幅55cm,縦14mの紙面上の直線コースとし,中央10m間の歩幅を計測した.歩幅は両足底の踵部に朱肉を貼付したフットプリント方式にて記録し,対象者全員に共通した5 周期分のデータを用いた.さらに,40%〜60%増加リズムと60%,70%減少リズムに歩行が同調可能かどうかを評価した.KAFO(Pacific Supply社製)は対象者の利き足に装着した.足継手はGait Solution,底屈制動(1 段階)とし,足関節可動域はフリーとした.統計処理は「RASあり」と「リズム増加条件」,「RASあり」と「リズム減少条件」の歩幅の比較を装具装着側(以下,装具側),装具非装着側(以下,非装具側)のそれぞれにFriedman 検定(危険率5%)を行った.有意差を認めた際にはBonferroniの補正をしたWilcoxon符号付順位和検定(危険率0.83%)を行なった.【倫理的配慮、説明と同意】対象者には本研究の趣旨を十分に説明した上で同意を得た.【結果】リズム増加条件における歩幅(cm)の平均は,装具側で「RASあり」(65.5 ± 9.6)と10%増(63.7 ± 11.0),20%増(62.6 ± 10.6),30%増(59.4 ± 12.0)とに有意差を認めた(p<0.0083).非装具側では有意差はなかった.リズム減少条件おける歩幅(cm)の平均は,装具側で10%減(66.1 ± 9.6)と20%減(62.0 ± 11.0),非装具側で「RASあり」(61.3 ± 11.1)と20%減(56.4 ± 10.1)とに有意差を認めた(p<0.0083).40%〜60%増,60%〜70%減に歩行が同調可能かどうかを評価した結果,40%増では全員が同調できたが,50%増,60%増,60%減,70%減においては約半数が同調できなかった.なお,各RAS歩行のリズムは自然歩行で99 ± 4.1bpm,10%〜30%増はそれぞれ108 ± 4.5,118 ± 5.0,128 ± 5.2bpmであり,10%〜30%減はそれぞれ89 ± 3.7,79 ± 3.2,69 ± 2.9bpmであった.【考察】本結果から,一定の歩幅で歩行可能なリズムの範囲は10%減から20%増(89 〜118bpm)であり,歩幅が一定でなくとも同調可能なリズムの範囲は30%減から40%増(69 〜138bpm)であることが分かった.従ってRASはKAFO装着下の歩行にも利用可能であると考える.しかし,急性期脳卒中患者にとっては歩幅が一定となるリズムは速くて難しいことが考えられ,まずは同調可能なリズムを目標にすることが良いのではないかと考えられた.RAS歩行はリズムへの同調が前提であり,それがリズミカルな歩行を引き出し,廃用予防や下肢機能改善を促進するのではないかと考えられる.従って,69bpmもしくはできるだけそれに近いリズムがKAFOを用いた介助歩行の目標となるのではないかと考えた.今回未実施であった40%,50%減の歩幅や実際の脳卒中患者に対する検討は今後の課題である.【理学療法学研究としての意義】本研究は,これまで報告が少ない装具歩行とリズムに関するものであり,長下肢装具歩行時に聴覚リズム刺激が利用可能であることが示唆された.さらに,介助歩行の目標となるリズムを想定できたことは,急性期脳卒中患者の歩行練習の一助となる可能性がある.

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© 2013 日本理学療法士協会
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