理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: C-P-35
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ポスター発表
両側一期的人工股関節全置換術後の経過
片側人工股関節全置換術との差異に関する考察
木村 恵理子永渕 輝佳永冨 孝幸永井 宏達山村 在慶
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抄録
【はじめに、目的】 両側股関節ともに末期変形性関節症を呈している患者に対し、近年両側一期的人工股関節全置換術(以下両側一期的THA)が行われるようになっている。両側一期的THAの長所は入院期間の短縮や麻酔リスクの軽減であり、一方短所は周術期合併症の増加であると言われている。入院期間は片側THAと大差ないとの報告があるが、入院期間中の経過についての詳細はあまり知られていない。 今回両側一期的THA後の理学療法を経験したので、片側THA後との違いに注目し入院中の経過を報告する。【方法】 対象は当院で2012年6月から10月までに両側一期的THAを施行された女性6例のうち術中骨折により術後免荷が必要であった1例と自宅退院できなかった1例を除外した4例。 対象者の平均年齢は60(49~68)歳、平均身長は154(148~158)cm、平均体重は49.9(47.8~52.8)kg、BMIの平均値は21.0(19.5~21.8)kg/m²であった。また、JOAの術前平均値は右51.8(41~71)、左48.3(46~52)であった。 原疾患は全例変形性股関節症で、明らかな先天性股関節脱臼の既往があるものは1例であった。 後療法は、手術翌日より荷重制限なく離床が許可され、2日目よりリハビリ室に出室した。疼痛に合わせて関節可動域練習、筋力増強練習、歩行練習を実施し、片側杖歩行を獲得した頃から日常生活動作練習を行った。 検討項目は、術翌日の離床状況、歩行器歩行自立、両側杖歩行、片側杖歩行、独歩の各獲得時期、術日から退院までの日数、股関節外転筋力とした。 股関節外転筋力はハンドヘルドダイナモメータを用いて測定し、測定時期は術前、術後10日、術後3週とした。センサー部の力(N)とそれぞれのアーム長(m)の積であるトルク(Nm)を算出し、その値を対象者の体重(kg)で除してトルク体重比(Nm/kg)を求めた。【倫理的配慮、説明と同意】 データの取り扱いに関しては患者に十分な説明を行い同意を得た。【結果】 術翌日より全荷重が許可されていたが歩行が可能であった症例はなく、離床状況は端座位まで可能であった症例が2例、車椅子移乗まで可能であった症例が2例であった。端座位で終了した理由は2例とも起立性低血圧の出現であった。 歩行器歩行自立までの日数は平均6.5(3~9)日、両側杖歩行自立までの日数は平均12(7~17)日、片側杖歩行自立までの日数は平均18.3(14~23)日、独歩自立までの日数は平均25.5(22~31)日、術日から退院までの日数は平均28.3(25~33)日であった。 股関節外転筋力のトルク体重比は、術前で右0.33(0.27~0.37)Nm/kg、左0.38 (0.20~0.56)Nm/kg、術後10日で右0.30(0.11~0.42)Nm/kg、左0.26(0.09~0.44)Nm/kg、術後3週では右0.52(0.49~0.55)Nm/kg、左0.50(0.46~0.53)Nm/kgであった。【考察】 両側一期的THAでは、術翌日の離床時に起立性低血圧が出現した症例は4例中2例であった。これは先行研究による片側THA後翌日の起立性低血圧出現率23.4%と比べると高い出現率となっていた。両側一期的THAでは片側THAよりも術中の出血量が多くなることが考えられることから、起立性低血圧の出現に注意が必要である。 両側一期的THA後の経過として、術後約1週間で歩行器歩行、10日前後で両側杖歩行、2~3週で片側杖歩行、3週以降に独歩が獲得でき、約4週で退院となっていた。 当院での片側THA後の経過について永渕らによると、片側杖歩行獲得までに平均6.6日、独歩獲得まで平均14.0日であったと報告している。今回、両側一期的THAはそれぞれの獲得までに11~12日遅れていた。また股関節外転筋力については、片側THA後の外転筋力のトルク体重比は術前で0.62 Nm/kg、術後10日で0.49 Nm/kg、術後3週で0.68 Nm/kgであったと報告しており、今回の結果では、片側THA後の値に比べ術前では約半分、術後10日で約60%、術後3週では約75%の値となっていた。両側一期的THAを施行する症例は元々外転筋力が弱く、術後10日や3週間後でも片側例に比べ低い値となっていることが、術後の歩行能力に影響している可能性が考えられる。【理学療法学研究としての意義】 両側一期的THAは今後も手術件数が増加すると考えられることから、経過の特徴を知ることは術後の理学療法を行う上で重要であると考えられる。
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© 2013 日本理学療法士協会
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