抄録
【はじめに、目的】変形性関節症(以下,OA)の軟骨破壊における初期の大きな要因として,異常なメカニカルストレス,たとえば膝OAの下肢アライメント不良や過荷重などにより関節軟骨基質の破壊が進行することが考えられている.機械的に関節荷重を加えた実験では,過重量によって関節軟骨の変形が異なり,30MPaもの大きな荷重を加えると関節軟骨内のfractureを生じると報告されている.しかし,メカニカルストレスは常に悪影響を及ぼす訳ではなく,適度なメカニカルストレスが加わることで,軟骨細胞を刺激し軟骨基質が合成される.このことから,メカニカルストレスの増減によって,軟骨細胞へ与える影響が変化すると考えられる.我々の過去の研究において,模擬微小重力環境下では,筋・骨分化が抑制されることを報告している.しかし,軟骨分化における模擬微小重力環境の影響については詳細な研究が行われていない.重力環境の変化が軟骨分化に与える影響の解明は,OA原因解明の一助となると考えられる.そこで本研究では,重力環境下と模擬微小重力環境下におけるヒト骨髄間質細胞の軟骨分化能を形態学的・分子細胞生物学的に解析および比較を行った.【方法】ヒト腸骨から骨髄細胞を採取し,培養皿に播種した.2 日後に培地交換によって浮遊細胞を除去し,培養細胞とした.必要細胞数に達するまで増殖培地で継代培養した後,2.5 × 105 個に細胞数を調整し,2500rpmで5 分間遠心し細胞塊を作成した.24 時間後に細胞塊を軟骨分化誘導培地に移し,重力環境・模擬微小重力環境の2 群で軟骨分化誘導を行った.模擬微小重力環境の作成には,重力分散型模擬微小重力発生装置(3-Dimensional Clinostat)を用いた.解析は,形態学的解析としてアルシアンブルー染色を行った.分子細胞生物的解析として RT-PCRを行った.【倫理的配慮、説明と同意】本研究は,細胞採取に際して,広島大学大学院医歯薬保健学研究科の倫理審査の承認を得た.また,対象患者には,手術前に骨髄採取を行うことを十分説明し,文書による同意を得て行った.【結果】形態学的解析では,重力環境群の方が模擬微小重力環境群よりも高いアルシアンブルー染色性を示した.分子細胞生物学的解析では,軟骨に特異的に発現する遺伝子TypeⅡalpha1 Collagenに関して,重力環境群の方が模擬微小重力環境群よりも高い遺伝子発現を示した.【考察】関節軟骨は,関節運動の結果生じる加圧と除圧によって滑液から栄養供給されることから,適度な関節運動は関節軟骨の物質代謝を保持する上で必要不可欠である.本研究において形態学的・分子細胞生物学的解析結果から,ヒト骨髄間質細胞の軟骨分化において,模擬微小重力環境が軟骨分化を抑制することが示された.模擬微小重力環境下では圧刺激が加わらないため,軟骨分化が抑制されたのではないかと考えられる.今後は,模擬微小重力環境の軟骨分化を抑制するメカニズムの解明を行いたい.【理学療法学研究としての意義】今回,模擬微小重力環境がヒト骨髄間質細胞の軟骨分化を抑制することが確認された.今後そのメカニズムを解明することで,OA原因解明の一助,OA治療に対する理学療法のエビデンス向上に繋がると考えられる.<本研究は平成24 年度理学療法にかかわる研究助成を受けて行った.>