理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: C-P-02
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ポスター発表
脊椎圧迫骨折に伴う腰背部痛とADLならびに身体活動量との関係性について
回復期病棟入棟時と退棟時における検討から
田中 陽理片岡 英樹西川 正悟中尾 優子吉村 彩菜山下 潤一郎沖田 実
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抄録

【目的】骨粗鬆症性骨折のなかでも,脊椎圧迫骨折(vertebral compression fracture:以下, VCF)は最も頻度が高く,急性腰背部痛を主訴として発症する.VCFに対しては,安静臥床や薬物療法,装具療法といった保存的治療が頻繁に施行され,日常生活動作(Activity of daily living;以下,ADL)や身体活動量の向上を目的にリハビリテーションを進めていくのが一般的である.また,VCFに伴う腰背部痛は1~2カ月で軽減するとされるが,実際は痛みが消失するケースから強い痛みが残存するケースまで腰背部痛の残存状況は様々である.さらに,VCF後の腰背部痛とADLや身体活動量との関係性については明らかでなく,VCF後のリハビリテーションにおいて腰背部痛の軽減のみに固執しすぎるとADLや身体活動量の獲得が不十分となる可能性がある.そこで,本研究では新鮮VCF患者における腰背部痛,ADL,身体活動量に対するアプローチを進めるうえでの基礎的なデータを得ることを目的に回復期病棟入棟時と退棟時においてこれらの関係性を検討した。【方法】対象は2012年3月から10月までに当院回復期リハビリテーション病棟(回復期病棟)に入棟し保存的治療を施行した新鮮VCF患者63名のうち,以下の条件を満たした23名(平均年齢82.04±7.44歳,男性7名,女性16名)とした.対象とした条件は,HDS-Rの得点が20点以上の非認知症であること,歩行時痛の発生部位が腰背部のみであること,退棟時に院内歩行が補助具の有無にかかわらず完全に自立していることとした.対象とした23名のVCF受傷から回復期病棟入棟までの平均日数は19.48±13.45日,退棟までは45.96±18.20日であった.調査項目は1)歩行時の有痛者率2)歩行時痛のvisual analog scale (VAS),2)functional independence measure (FIM),3)身体活動量とした.身体活動量は加速度センサー内蔵型消費カロリー測定器であるライフコーダー(Suzuken)を対象者の骨盤部に24時間装着することで測定した.なお,今回はライフコーダーにより測定される歩数を身体活動量として採用した.分析にあたってはVAS,FIM,歩数を入棟時と退棟時で比較した.また,入棟時,退棟時におけるVASとFIMならびに歩数との関係について検討した.さらに,退棟時の歩行時痛の有無により対象者を群分けし,両群間でFIMと歩数を比較した.統計学的有意水準は5%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】本調査は対象者に目的を説明した後,同意の得られた者に対して行なった.また,分析にあたっては当院が定める個人情報取り扱い指針に基づき実施した.【結果】入棟時,歩行時痛は20名(86.9%)が訴えていたが,退棟時では11名(47.8%)となり有意に減少していた.また,入棟時に比べ退棟時ではVASは有意に減少し,FIMと歩数は有意に高値を示した.入棟時において,VASとFIMに関連は認められなかったが,VASと歩数には負の相関関係が認められた.一方,退棟時おいてはVASとFIMならびにVASと歩数はともに有意な関連は認められなかった.次に,退棟時の歩行時痛の有無により,FIMや歩数を比較した結果,歩行時痛有り群と無し群の間に有意差を認めなかった.【考察】今回の結果,入棟時に比べ退棟時のVASが減少したことから退棟時ではVCFにともなう急性痛が軽減したことが伺える.また,FIMや歩数の入棟時と退棟時の比較から,VCFに伴うADLや身体活動量の低下が改善したといえる.次に VASとFIMは入棟時,退棟時ともに有意な関連を認めず,退棟時の歩行時痛の有無で検討しても有意差は認められなかった.このことから,VCFに伴う腰背部痛はFIMにより評価されるような基本的なADLに影響を与えないことが示唆された.次に,VASと歩数に関しては,入棟時では関連が認められたものの,退棟時では関連がなく退棟時の歩行時痛の有無で検討しても歩数に有意差は認められなかった.以上の結果からVCFの早期では腰背部痛の軽減に対するアプローチとともに身体活動量を向上させるプログラムを進める必要があるものと考えられた。一方,身体活動量が改善してくれば,腰背部痛が残存していてもこれに固執しすぎず身体活動量の維持・向上を主眼としたアプローチを進める必要があると考えられた.【理学療法学研究としての意義】本研究はVCF患者の腰背部痛とADL,身体活動量の関係性が時間経過とともに変化することを客観的に提示しており,VCF患者におけるこれら3者に対するアプローチを進めるうえで参考となる基礎的なデータとして意義深いと考える.

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© 2013 日本理学療法士協会
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