抄録
【はじめに】当院は、脳神経外科領域を主たる診療科とする128床の急性期病院である。リハビリテーション体制は、理学療法士22名、作業療法士16名、言語聴覚士11名、このうちStroke Care Unit(以下SCU)専従は理学療法士2名、作業療法士1名、言語聴覚士1名の体制で実施しており、脳卒中急性期における病態の変動に応じたリスク管理体制の構築に向け取り組んでいる。脳卒中急性期において繊細な観察が必要とされる病態の1つに、脳血管窄通枝入口部の微小アテロームによる閉塞から窄通枝全体が梗塞に陥ることで起こる分枝粥腫病Branch Atheromatous Disease(以下BAD)がある。BADは、治療抵抗性で進行性増悪をたどることが特徴とされているが、リハビリテーションに関するFunctional Independence Measere(以下FIM)効率などを検討した報告は少ない。そこで、当院におけるBADを呈した症例に対して臨床経過とリハビリテーションの現状について後方視的に分析を行ったので報告する。【対象と方法】対象は、平成23年9月1日から平成24年9月30日までの間に当院SCUに搬送された脳梗塞患者440名のうちBADを呈した39名である。性別は、男性23名、女性16名、平均年齢70.4±12.5歳。テント上BAD(レンズ核線条体動脈領域)24例、テント下BAD(橋傍正中枝領域)15例とした。検討項目は、入院後に症状の増悪を来した症例数。リハビリ開始までの日数。増悪群と非増悪群におけるFIM効率。増悪群と非増悪群間における在院日数の比較。増悪群と非増悪群におけるFIM効率と在院日数の相関関係。自宅復帰群と回復期病院転院群のFIM効率。増悪群と非増悪群における糖尿病/高血圧/喫煙の合併率を検討した。統計処理は、対応のないt検定を用い危険率5%で分析を行った。相関関係は、ピアソンの相関係数を用い算出した。【倫理的配慮、説明と同意】ヘルシンキ宣言に則り実施した。後方視的研究となるため、個人情報の取り扱いは当院個人情報保護規定を遵守し個人が特定できる情報は用いずに実施した。【結果】入院後に症状の増悪を来たした症例数は12症例(レンズ核線条体動脈領域6例、橋傍正中枝領域6例)であった。リハビリ開始までの日数は、増悪群と非増悪群ともに入院当日もしくは翌日にリハビリが開始されていた。増悪群のFIM効率は0.49、非増悪群のFIM効率は0.62であった。在院日数は、増悪群61.1日、非増悪群29.2日であり有意差が認められた。FIM効率と在院日数の相関関係は、増悪群においてr=-0.45と負の相関関係が認められ、非増悪群においてもr=-0.30と負の相関関係が認められた。回復期転院群のFIM効率は、0.25であり自宅復帰群のFIM効率は0.78であった。糖尿病合併率は増悪群42%、非増悪群44%であった。高血圧の合併率は増悪群83%、非増悪群77%であった。喫煙率は増悪群50%、非増悪群59%であった。【考察】脳血管疾患に対するリハビリテーションは、脳卒中治療ガイドラインにおいて「廃用症候群を予防し、早期の日常生活動作能力の向上と社会復帰を図るために、十分なリスク管理のもとにできるだけ発症後早期から積極的なリハビリテーションを行うことが強く勧められる(グレードA)」が推奨されている。BAD症例においてもバイタルサインの変動や神経学的所見等の確認を密に行い発症早期から積極的にリハビリテーションの介入を行うことが望まれる。当院のBAD症例において31%に増悪が認められており、早期介入時のリスク管理の重要性を再認識する結果となった。また、赤萩らの研究では、BADを呈するレンズ核線状体動脈や橋傍正中枝領域は、錐体路を潅流する血管であり分岐部からの梗塞は運動麻痺を起こしやすいと述べられている。今回の我々の研究においても運動麻痺などの影響により回復期病院へ転院される症例が31%おり、FIM効率においても回復期転院群で低値を示した。このことより、発症早期から予後予測を的確に行い個々の症例に合わせたリハビリテーション計画の立案を行うことの重要性が示唆された。今後は、増悪に関連する因子や予後予測に影響を与える因子について症例数を増やし検討していくことが課題である。【理学療法研究の意義】発症早期からの積極的なリハビリテーションの介入が推奨されている中で、急性期において病態が不安定なBADに対して安全で良質な理学療法を展開するための一助となる研究であったと考える。