理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: A-P-39
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ポスター発表
片脚立位時における中殿筋の筋電図学的分析 変形性股関節症患者における前部線維、中部線維の筋活動量の関係
松本 浩希真田 将幸加納 一則
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キーワード: 片脚立位, 中殿筋, 筋積分値
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抄録

【はじめに、目的】中殿筋は、解剖学的構造より前部・中部・後部線維に分けられ、それぞれの部位によって機能が異なる可能性がある。先行研究では、中殿筋を単一の線維と捉え機能を推論することは不適当であることが述べられている。しかし、従来の筋活動に関する報告は中殿筋を筋全体として捉えたものが多く、筋の各部位ごとに筋活動をみているものは少ない。また、先行研究の対象者は健常者であることがほとんどであり、股関節疾患患者や股関節術後患者での検討は非常に少ないのが現状である。そこで、本研究の目的は、表面筋電図を用いて変形性股関節症患者(以下、股OA患者)の片脚立位時(以下、OLS)の中殿筋前部線維、中部線維における筋活動量を調査することとした。【方法】対象は、人工股関節全置換術術直前の片側股OA患者9 名(57.7 ± 8.7 歳)とした。対象者は全例女性であった。一般調査項目として、罹病期間、OAの病期、股関節可動域(屈曲、伸展、外転、内転、外旋)、OLS保持時間、OA側・非術側外転筋力、OA側股関節機能判定基準を調査した。筋力の評価は徒手筋力計を用いた。また、測定値を体重で除し、体重支持指数(Weight Bearing Index;WBI)を算出した。方法は、OLS時の中殿筋前部・中部線維の筋活動量を、表面筋電図を用いて測定した。筋電図測定時には、指先介助程度のハンドサポートを行ない、OLS動作を安定させた。筋電図の測定にはNORAXON社製Myosystem1200 を用い、解析にはNORAXON社製Myoresearchを用いた。測定はOA側、非術側の両側実施し、直径22mmの電極を用い、双極誘導法にて電極間距離を20mmとした。各筋線維の電極の設置位置は池添らの方法に準じ、皮膚抵抗は、10KΩ以下となるように皮膚前処理を行った。OLS時の筋電波形を整流平滑化処理し、波形の安定している3 秒間の積分値を求めた。次に、非術側OLS時の波形を100%difference とし、OA側OLS時の%differenceを求めた。OA側および非術側OLS時の前部線維と中部線維の%difference における差の検定には、ウィルコクソン符号付順位和検定を用いた。【倫理的配慮、説明と同意】今回の調査は、ヘルシンキ宣言の規定に従い実施し、研究の趣旨、測定の内容、個人情報の取り扱いに関して説明を行った上で研究協力の承諾を得た。【結果】一般調査項目は、罹病期間が33 ± 25.1 年、OAの程度は末期7 名、進行期2 名、股関節可動域は屈曲が83.9 ± 16.9 度、伸展が2.2 ± 6.7 度、外転が12.8 ± 12.8 度、内転が6.1 ± 5.5 度、外旋が23.9 ± 10.8 度、OLS保持時間は15.0 ± 8.7 秒、OA 側・非術側外転筋力(WBI)はOA側10.7 ± 2.9%、非術側14.6 ± 3.1%、OA側股関節機能判定基準は58.1 ± 13.9 点であった。筋電図評価では、OA側前部線維が179.8 ± 122%、OA側中部線維が182.2 ± 70.9%であった。統計学的検討において、前部線維では有意差を認めなかった(P=0.14)が、中部線維で有意差(P=0.008)を認めた。【考察】本研究の結果、OA側OLS時の%differenceは非術側OLS時と比し、前部線維では有意差を認めなかったが、中部線維で有意差を認めた。先行研究において、OLS時における中殿筋の筋活動量は、非術側あるいは健常者に比べ、OA側の活動量が有意に大きいことが報告されている。これは、中殿筋の弱化の代償として、過剰な筋活動を呈していたこと、関節変形によりレバーアームが短縮し、中殿筋の作用効率が悪化していたこと、疼痛による影響等が要因として述べられている。今回、中部線維で有意差を認めたことは、先行研究と同様の要因が影響していたと考える。一方、前部線維において有意差を認めなかったのは、骨盤〜股関節のアライメント異常の影響を受けていたためではないかと考えた。また、前部線維と中部線維で違う結果が出たことにより、股関節疾患患者においても中殿筋内での機能分化の可能性を示唆しているのではないかと考える。しかし、今回の調査は対象者数が少なく、個人間のばらつきも大きいため、どのような因子を持つ股関節疾患患者が中殿筋内で活動量に差が生じるのか検討するまでには至っていない。今後は、対象者数を増やしアライメントとの関係も考慮して再検討する必要がある。【理学療法学研究としての意義】先行研究では、股関節疾患患者の中殿筋の部位別での機能を調査した報告は非常に少ない。中殿筋のそれぞれの部位での機能を知ることは、歩行分析・リハプログラムの立案などの際に、有意義な情報になると思われる。

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© 2013 日本理学療法士協会
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