理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: A-P-25
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ポスター発表
腹臥位での脊柱彎曲角度測定の信頼性
末廣 忠延大坂 裕小原 謙一渡邉 進
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抄録

【はじめに】腰痛症患者は,しばしば四肢運動中に過度の腰椎・骨盤の可動性を認める。一方,腰椎の運動機能障害の評価として腹臥位での股関節伸展運動や腹臥位での膝関節屈曲運動が用いられ、過度の腰椎前彎・骨盤前傾が認められる(Sahrmann 2002)。そのため腹臥位での脊椎・骨盤の動きを定量的に評価することは重要である。そこで立位・座位での脊柱の彎曲角度を被験者の背部の体表面から簡便に測定できる脊柱形状計測分析器 “Spinal Mouse”(Index社製)(以下Spinal Mouse)という機器で,腹臥位時の脊柱彎曲角度が測定できないかと考えた。このSpinal Mouse は立位での直立姿勢や立位での屈曲・伸展の脊柱の彎曲角度測定についての高い信頼性が報告されている(Manion 2004)。しかしながら,Spinal Mouseを使用して,腹臥位での再現性を検討した報告は我々の渉猟し得た範囲では見当たらない。そこでSpinal Mouseを使用して,腹臥位での同日内の測定間と異なる測定日間の検査者内信頼性を検討することを目的とした。【方法】対象は健常男性20 名(平均年齢21.2 ± 3.0 歳)であった。脊柱彎曲角はSpinal Mouseを使用して,1日目と2日目に各2回ずつ測定した。測定肢位は腹臥位で両上肢を体側に配置し,股関節は中間位とした。また初日とその翌日の測定前に第7 頸椎から第3 仙椎の棘突起を触診し棘突起のすぐ外側にマーキングを行った。脊柱彎曲角の測定はマーキング箇所にセンサー部を当て,頭側から尾側へ移動させて測定した。初日とその翌日の2 回目の測定は,同日の1 回目の測定時に使用したマーキングを使用した。今回分析に使用したのは第1 胸椎から第12 胸椎までの上下椎体間がなす角度の総和を胸椎後彎角,第1 腰椎から第1 仙椎までの上下椎体間がなす角度の総和を腰椎前彎角,仙骨背側表面と鉛直線とのなす角度を仙骨傾斜角として測定した。なお,検者は臨床経験8 年の理学療法士1 名とし,十分な練習を行った後に測定した。統計処理はSPSS ver. 21 を使用し,1 日目と2 日目の各同日内の1 回目と2 回目の計測値で級内相関係数(以下,ICC)を求め,同日内の検者内信頼性を検討した。また,異なる測定日間のICCは1 日目と2 日目の各2 回の平均値を代表値としてICCを求めた。さらに,同日内と異なる測定日間の検者内の測定誤差の分布範囲を調査するために,Bland-Altman分析を行い,系統誤差である加算誤差と比例誤差の有無を検討した。加算誤差は,測定値の差の平均の95%信頼区間を算出し,この区間が0 を含まない場合,固定誤差が存在すると判断した。比例誤差は作成したBland-Altman plotにおけるPearsonの相関係数を算出し,有意水準5%にて有意な相関がみられた場合,比例誤差が存在すると判断した。【倫理的配慮,説明と同意】被験者全員に対し本研究について十分な説明を行い,同意を得た。【結果】胸椎後彎角,腰椎前彎角,仙骨傾斜角の1 日目の同日内のICCは,それぞれ0.94,0.95,0.85 であった。また2 日目の同日内のICCは0.97,0.92,0.92 であった。また異なる測定日間のICCは,0.84,0.91,0.78 であった。Bland-Altman分析では1 日目・2 日目の同日内,異なる測定日間のいずれの胸椎後彎角,腰椎前彎角,仙骨傾斜角においても測定値の差の平均が95%信頼区間に0 を含んでいた。またBland-Altmanの回帰に有意な相関を認めなかった。【考察】本研究での腹臥位での同日内,異なる測定日間の胸椎後彎角,腰椎前彎角,仙骨傾斜角のICCはいずれも0.78 以上でいずれの指標もsubstantial以上で,Manionらが報告した立位での測定と同様に高い信頼性が得られた。またBland-Altman 分析の結果,同日内・異なる日間の検者内の胸椎後彎角,腰椎前彎角,仙骨傾斜角は加算誤差,比例誤差ともに存在しないと確認された。このことから腹臥位でSpinal Mouseの使用は信頼できる測定値が得られることが示唆された。本研究は測定値の再現性を検者内で検討したが,検者間での測定も必要である。今後はこれらの課題を解決するために更に研究を進めていきたい。【理学療法学研究としての意義】Spinal Mouseの腹臥位での脊柱彎曲角度の信頼性を検証することにより,腹臥位時の脊柱彎曲角度,仙骨傾斜角の評価の有用性が期待できることが示され,理学療法の効果判定に寄与するものと思われる。

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© 2013 日本理学療法士協会
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