抄録
【はじめに、目的】膝痛は、高齢者のIADLを低下させる主要な要因である[大渕修一他、理学療法ジャーナル42, 2008]。高齢期の膝痛は女性に多いことから、閉経後の関節動揺性の増加が膝痛の発症頻度を高めるのでは無いかと考えられる。そこで本研究では、歩行時の膝関節動揺性を三次元解析装置により測定し、この動揺性と痛み関連QOLとの関連、運動器リスクの有無との関係を明らかにする事を目的とした。ところで、動揺性の定義は、定まっていないが[Heijink A et al. Knee Surg Sports Traumatol Arthrosc 20, 2012]、本研究では、動揺性を歩行時の大腿の下腿に対する前後移動量、側方移動量、最大内反角、最大外反角、最大内旋角、最大外旋角で定義する。このため、国内でよく使われるVICON等に比べて、優れた分解能を持つ(3m離れた測定空間で、0.01mmの分解能)を持つOPTOTRAK Certusシステムを用い、剛体モデルを使って下腿・大腿の運動学データを測定する。【方法】東京都A区の9 地区に在住する65 歳〜84 歳の高齢者6699 名に呼びかけ、研究協力に同意した898 名を対象とした。平均年齢男性74 ± 5 歳、女性73 ± 5 歳であった。三次元解析には、OPTOTRAK Certus (Northern Digital社製, Canada)を用いた。1.5mm厚のアルミプレートに5 個の赤外線マーカを貼付した大腿用、下腿用カフを大腿の下中1/3 部、下腿の上中1/3 部にしっかりと固定した。2 つのカフの基準点として用いるため、腓骨の長軸で膝裂隙と交差する点に赤外線マーカを貼付した。合計11 個の赤外線マーカをサンプリング周波数100Hzで測定した。被検者には、加速路1.5m、測定路2m、減速路1.5mの歩行路を自然な速度で歩くように指示し、十分に慣れたところで2 回、測定した。立位の剛体モデルを基準にオイラー法を用い、大腿、下腿の屈曲伸展角、内反・外反角、内旋・外旋角、前後移動、側方移動、上下移動を求めた。このとき下腿の局座標を大腿の局座標を基準に変換し、すなわち大腿に対する下腿の動きを求めた。痛み関連QOLはJKOM を、運動器リスクの有無は基本チェックリストを用いた。膝関節動揺の性・年齢別の特性を把握するために、性・年齢区分別の最大前方移動量、最大後方移動量、最大外側移動量、最大内側移動量、最大外反角、最大内反角、最大内旋角、最大外旋角の平均値、標準偏差を求めた。次に、これらの値と運動機能などの諸変数との関係について、比尺度、間隔尺度である場合にはPearsonの相関係数を、名義尺度、順序尺度である場合はSpearmanの順位相関係数を用いて検討した。統計にはIBM SPSS Statistics Version 18.0.3Jを用い、有意水準は5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】この研究は、厚生労働省の疫学研究に関する倫理指針に則り計画し、機関の倫理委員会の承認を得て行った。被検者は、調査の内容を説明され、十分な質問の機会を得たうえで、書面による実験参加に同意した。【結果】最大の前方移動は、男性で65 から69 歳の男性で7.9mm、70 から74 歳で8.0mm、75 から79 歳で8.7mm、80 から84 歳で9.3mmと加齢と共に増加した。女性も同様で、それぞれ9.1mm、11.1mm、9.7mm、12.0mmであった。男性に比べて女性の動揺量が大きかった。JKOMスコア、基本チェックリストの該当数は、男性では最大前方移動量と有意な相関を認めた(それぞれr=.195, r=.157)。女性においては、基本チェックリストの該当数との関連は有意では有るものの弱かったが、JKOM スコアとの相関はr=.154 であった。【考察】膝関節の動揺性は僅かな動きであるため、従来の分析では測定が難しかった。本研究では、分解能が0.01mmの高解像度の測定装置を用い、剛体モデルの解析を行うことによって、これを測定することを可能にした。また、症例数が898 名と多いことは統計学的な検出力を高めている。三次元解析装置による膝関節動揺性測定は、2 回の測定の一致度が73%以上であり、再現性が高い測定である。本研究の結果、関節の動揺性が痛みや、運動器のリスクと関連していることが明らかとなった。これは、これまで変形性関節症などの仮説が正しかったことを証明するものである。本研究は、横断調査であるため、その因果関係を明らかにするものでは無い、追跡調査を実施し、膝の動揺が痛みや運動器のリスクを引き起こすのかどうか検討する必要がある。【理学療法学研究としての意義】本知見は、理学療法の予後予測能力を進歩させるものであり、定量的に動揺性を測定することで、将来の治療法の開発にも貢献する。