理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: C-O-13
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一般口述発表
膝前十字靭帯再建術後のヒラメ筋から記録されるH反射の変化について
小野 淳子大工谷 新一林 義孝
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抄録

【はじめに、目的】膝前十字靭帯(ACL)再建後の症例において,機能評価については関節可動域や筋力が主な指標となるが,その回復程度と動作獲得レベルは必ずしも一致しないことを経験する.そのため,筆者らは機能評価において電気生理学的検査を実施している.今回,ACL再建後の症例においてヒラメ筋のH反射を縦断的に記録したので報告する.【方法】対象は,ACL再建後の症例6名(症例A・B・C・D・E・F)である.各症例のリハビリテーション過程においては症例A,B,Dでは特に特徴的な所見は認められなかった.症例CとEでは術側の下肢に痛みが出現していた時期があり,動作で非術側下肢が優位に動員されている特徴を認めた.症例Fは安全な動作イメージの学習に多くの指導を要した.H反射において,症例Aは術後1,3,4,5,6ヶ月,症例Bは術前,術後1,2,3,4ヶ月,症例Cは術前,術後1,2,3,4ヶ月,症例Dは術後1,2,4,5ヶ月,症例Eは術後2,3,4,5ヶ月,症例Fは術後1,2,3,4,5,6,7ヶ月に記録した.各症例のH反射を記録し,振幅H/M比の経時的変化と外観上のスポーツ動作所見とを比較検討する.H反射の測定・記録条件は,被験者を腹臥位とし膝窩部脛骨神経から持続時間1.0ms,頻度0.5Hzの刺激を16回与え,ヒラメ筋からH反射を記録する.導出したH反射より頂点間振幅を計測し最大M波振幅との比から振幅H/M比を求める.【倫理的配慮、説明と同意】対象には研究の趣旨を説明し同意を得た.【結果】症例A・B・Dの振幅H/M比については特徴的な結果は認められなかった.症例Cの術前,術後1,2,3,4ヶ月の振幅H/M比(非術側,術側)は(0.07,0.05),(0.09,0.09),(0.11,0.08),(0.11,0.07)(0.06,0.05),症例Eは術後2,3,4,5ヶ月の振幅H/M比は(3.20,0.08),(1.40,0.05),(3.10,0.05),(1.13,0.26)で,術側下肢の痛みにより外観上のスポーツ動作所見で非術側下肢が優位に動員していると思われた時期に非術側での振幅H/M比の増大を認めた.一方,症例Fの結果は術後1,2,3,4,5,6,7ヶ月の順に(0.01,0.46),(0.001,0.38),(0.27,0.18),(0.21,1.21),(0.25,0.45),(0.15,0.44),(0.17,0.62)であり,安全な動作イメージの学習に多くの指導を要した時期に合致して術側の振幅H/M比が増大していた.【考察】H波は単シナプス反射であり,その反射弓は求心性感覚神経,脊髄前角細胞,末梢運動神経の各要素が関与しているためH反射は脊髄神経機能の興奮性を示す指標となる.しかし,H反射は末梢筋から記録するため,筋の温度や収縮状態,短縮や萎縮により影響される.H反射を検討する際に用いられる指標に振幅H/M比がある.振幅H/M比はH反射の振幅を同名筋の最大M波の振幅で除したもので,末梢筋の状態変化に影響されない脊髄興奮準位の指標となるものである.今回,ACL再建術後の症例のH反射において,リハビリテーション過程の特徴と合致した所見が得られた.具体的には,対称的なスポーツ動作でも非術側下肢が優位に用いられているという動作観察所見が得られた症例や,安全な動作イメージの学習に難渋した症例で,それらの時期に合致して振幅H/M比の増大が認められた.さらにリハビリテーション過程で特記する所見のなかった症例においては,振幅H/M比にも特記すべき所見は得られなかった.この結果から,リハビリテーション過程において,一側下肢の過用という動作観察所見が認められた時期や動作イメージの学習を積極的に進めていた時期においては,H波の反射弓である求心性感覚神経・脊髄前角細胞・末梢運動神経の興奮性が増大していた,あるいは脊髄神経機能の興奮性を修飾する上位中枢の興奮性が増大していたことが考えられた.【理学療法学研究としての意義】本研究の結果から,競技復帰を目標とするACL再建術後のリハビリテーション過程において,H反射を一つの評価指標とすることで定性的な理学療法評価所見を裏付ける客観的な所見が得られることが期待できる.さらに,ACL再建術後のリハビリテーション過程における脊髄神経機能の変化が明らかになることで動作を再獲得する過程におけるCortical adaptationに代表される神経機序に裏付けられた理学療法の提供が可能になると考えられる.

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© 2013 日本理学療法士協会
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