理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: D-P-02
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ポスター発表
下肢挙上運動時の姿勢の変化が循環応答に及ぼす影響について
掘井 吉幸浅井 剛柳本 智鎌田 里佳横濱 洋上嶋 健治野木 佳男
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抄録

【はじめに、目的】 心不全などうっ血の高度な症例では、起座呼吸に代表されるように運動時の姿勢変化が循環応答に強く影響している。したがって運動時の姿勢変化による循環系への影響を明らかにすることは、心臓リハビリテーション(心リハ)における安全かつ効果的なレジスタンストレーニングの実施に必須であり、循環応答が強く影響する高齢心不全患者を対象とした心リハの実施においては特に重要である。そこで、安全かつ効果的な心リハの実施のための基礎的検討として、健常成人を対象とし、下肢レジスタンストレーニング実施時の姿勢の変化が自律神経活性を含めた循環応答にどのような影響を及ぼすのかを、複数の姿勢における下肢挙上運動時の循環応答の測定を実施し検討した。【方法】 対象は健常成人12名(男/女:6/6名、年齢24.8±3.6[歳]、BMI20.5±2.4)であった。各対象には、事前に循環応答に影響を及ぼす可能性のある心疾患の有無および服薬状況について確認を行った。運動時の姿勢は背臥位、端座位、傾斜台を使用しての35°tilt、70°tiltとし、それぞれにおいて下肢伸展挙上を左右交互に20回行い、その際の心拍数(HR)、収縮期血圧(SBP)、拡張期血圧(DBP)、二重積(DP)、Borg指数、心拍周波数成分の高周波数成分(HF)、低周波数/高周波数成分比(LF/HF)を求めた。心拍周波数成分の測定にはUNION TOOL社製のウェアラブル心拍センサmy Beatを使用し、HFとLF/HFの値は、運動終了直後の値とした。挙上運動のスピードはメトロノームを使用して20bpmに統一し、各姿勢での運動の施行順序はランダムとした。 統計解析には、姿勢変化の影響を検討するために、各指標に対して姿勢の影響を説明変数とした反復測定一元配置分散分析を行った。さらに、姿勢変化の影響が有意であった場合、ボンフェローニ法を用いて多重比較を行った。統計学的有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 全症例に対して、調査結果を研究に利用する事について、十分に説明し、口頭にて同意が得られた。【結果】 反復測定一元配置分散分析では、以下に示すように全ての循環応答の指標に対して、姿勢変化が有意な影響を及ぼしていた(p < 0.05)。すなわち、各条件間の比較において、HRでは、臥位と比較して35°tiltおよび70°tiltが有意に高値を示し(p < 0.001)、さらに座位との比較では70°tiltが有意に高値を示していた(p < 0.001)。DBPでは、臥位と比較して座位が有意に高値であった(p < 0.001)。DPでは、臥位と比較して35°tiltおよび70°tiltが有意に高い値を示していた(p < 0.001)。自律神経指標では、LF/HFは座位と比較して70°tiltで有意に高値を示したが(p = 0.0046)、HFは条件間に有意な変化は認められなかった。【考察】 本研究では臥位、座位、35°tilt、70°tiltでの循環応答を測定し、姿勢変化が循環応答に及ぼす影響を検討した。結果よりHR、DPではtiltに従ってそれぞれの値は有意に増加した。Mitchellらによると相対的運動強度が同じであっても、運動に関与する筋量が多い方が心拍血圧反応は大きいとしている。この事から、臥位と比較して35°tiltや70°tiltでは、抗重力筋活動が強くなり動員される筋が多くなったために、HR、DPが増加したと考えられる。一方で自律神経活性では、LF/HFに有意差が得られたのは、座位から70°tiltへ姿勢変化した場合のみであったが、臥位、35°tiltのそれぞれと比較した70°tiltにおいては、有意差は認められなかったものの高い値となっている傾向が見られた。この70°tiltが高い値となっている傾向は、被験者らが70°tiltでの下肢挙上運動時の恐怖感を訴える事があり、このストレスが影響したのではと考えられた。 今回の研究により健常成人においても運動時の姿勢の違いが自律神経活性を含めた循環応答に影響を及ぼす事が明らかとなった。現状では心リハの場でどのような運動様式が最も安全かつ効果的に行えるのかは明らかにできていないが、今後心疾患患者を対象とした心リハ施行時にも有用な情報予感が得られた。【理学療法学研究としての意義】 今後の展望として、今回のデータを基盤として、心疾患を有する症例を対象に姿勢の違いによりどのような循環応答になるのかを検討し、より安全な運動様式がないかを明らかにする必要があると考える。

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© 2013 日本理学療法士協会
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