理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: E-O-02
会議情報

一般口述発表
限界集落における高齢者の身体能力についての調査報告
中山間部と島嶼部との比較
西尾 祐二山内 正雄水間 恒鴻上 佐和子浅並 千晴和泉 健太岡崎 浩治田中 幸弘青野 勇紀渡邉 隼人河内 莉奈重信 尚也高橋 敏明渡邊 誠治竹葉 淳
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録
【はじめに、目的】現在,我が国の高齢化率は急激な上昇を続け,2050年には国民の約1/3が65歳以上の高齢者という本格的な高齢化社会の到来が見込まれている.大野らは,限界集落とは,65歳以上の高齢者が過半数を占める状態と定義しており,昨今そういった限界集落が増加している.また,高齢者が地域で生活していくということは大きな課題であり,ADL能力や身体機能の維持,そして要介護状態に陥らないための取り組みが重要とされている.我々の居住地域である愛媛県は,中山間部及び島嶼部が多く存在する特徴的な地形を有している.そこで今回,愛媛県の中山間部及び島嶼部において限界集落で生活する高齢者を対象にADL能力及び身体機能の調査・比較を行ったのでその結果を報告する.【方法】愛媛県内の中山間部地域及び島嶼部地域で生活する65歳以上の高齢者163名を対象とした.内訳は中山間部75名(男性22名,女性53名,平均年齢76.75歳)及び島嶼部88名(男性35名,女性53名,平均年齢76.12歳)で、認知面に問題のある者及び身体測定にリスクのある者は除外した.身体機能の測定項目は,身長・体重・片脚立位時間・前方及び側方へのfunctional reach test(以下FR)・time up & go test(以下TUG)・握力・finger floor distance(以下FFD)・下肢筋力測定であった.身体機能の測定は、全て理学療法士により実施した.下肢筋力測定は両側の膝関節伸展筋力及び股関節外転筋力を測定し体重で除した値とした.統計処理は,対応のないt検定を使用し,全てにおいて危険率5%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】事前に当該地域の公民館長に連絡を取り,参加可能な住民に調査の趣旨を伝え,承諾を戴いた.【結果】身体機能における男女全体の平均値は,片脚立位では,中山間部が右13.8±13.46秒,左13.79±13.47秒で,島嶼部が右25.06±33.34秒,左28.29±31.31秒で優位に島嶼部が上回っていた。ただし,全国平均から見ると両群とも下回っていた。FRでは中山間部が前方25.36±6.14cm,右14.94±4.01cm,左14.43±4.9cm,島嶼部が前方26.58±7.48cm,右17.99±6.5cm,左16.9±6.03cmと左右において島嶼部で中山間部を上回っていた (p<0.05).FRの前方は全国平均を上回っていた。FFDでは,中山間部が7.19±10.65cm,島嶼部が2.05±12.54cmであり島嶼部で優位に減少していた(p<0.05).ただし、両群とも全国平均を下回っていた。下肢筋力では,膝伸展筋力は中山間部が右0.38±0.13kg/w,左0.36±0.13kg/w,島嶼部が右0.46±0.17kg/w,左0.43±0.17kg/w,股関節外転筋力では,中山間部が右0.23±0.08kg/w,左0.23±0.006kg/w,島嶼部が右0.33±0.14kg/w,左0.34±0.15kg/wと島嶼部で優位に増加していた(p<0.05).TUG・握力において有意な差は認められなかったが,両群とも全国平均を下回っていた。【考察】今回の調査では,限界集落の身体機能は全国平均を下回るものが多かった。中山間部と島嶼部を比較すると,片脚立位・左右FR・FFD・下肢筋力で有意な差が認められ,全体的に中山間部で低下している傾向にあった.握力やTUGに有意差は認められなかったが,両群とも片脚立位・前FFD・握力・TUGにおいては全国平均を下回っており,FRのみが全国平均を上回っていた。十日町の調査によれば、中山間部では日常生活でほとんどの世帯が車やバイク・公共機関を利用し,島嶼部での生活は,徒歩が多いとの報告もあり,島外への交通手段として船が使用されている現状がある.これが、中山間部で身体機能低下が生じている一員である可能性がある。漆畑は,高齢者のバランス能力を静・動的バランス,外乱刺激に分類し研究した結果,高齢者では視覚でのバランス調整が主となり,体制感覚のそれは低下していると述べている.FRにおける中山間部と島嶼部の違いについては、島嶼部では通院などで日常的に船を使用することにより,バランス能力や下肢筋力の向上及び足底感覚低下の抑制が,このような結果の一員であるのかもしれない. FFDでは,島嶼部で優位に減少していた。下肢後面の筋の伸張性低下が要因の一つであると思われるが,今回の調査では,その原因は特定できなかった。今後,更に調査を進めていきたい. 今回の研究では,島嶼部地域と中山間部地域におけるそれぞれの身体機能の特徴を研究した.今後は,限界集落に住む高齢者ができる限り要介護度状態に陥らないよう継続した調査及び介入をしていきたい。【理学療法学研究としての意義】現在我が国の高齢者人口は過去最高となっている.しかしながら,理学療法分野において限界集落に対する予防医学的な取り組みに対する研究は少ない。本調査報告により,高齢化社会に対して理学療法の関わるべき方向性が示唆されればと考える。
著者関連情報
© 2013 日本理学療法士協会
前の記事 次の記事
feedback
Top