理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: A-P-13
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ポスター発表
股関節伸展制限が歩行時の股関節外転筋群の筋活動様式に及ぼす影響
崎谷 直義阿南 雅也新小田 幸一
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抄録
【はじめに、目的】股関節外転筋群は,歩行時の立脚期には閉鎖的運動連鎖が生じるため,相対的に骨盤を水平面に保持する働きを有している.変形性股関節症(以下,股OA)では股関節外転筋力の低下により,骨盤が遊脚側へ傾斜するTrendelenburg跛行を呈することが多い.また,股OAで頻繁に認められる股関節伸展制限は,歩行時の骨盤前傾角度を増大させることが山崎らにより報告されている.中殿筋,大腿筋膜張筋,大殿筋上部線維で構成される股関節外転筋群は骨盤に広い起始部をもち,大腿骨への停止部を結ぶと扇状の形態を有することから,矢状面における骨盤前後傾角度の変化に伴い,股関節外転筋群の筋活動様式が変化することが考えられる.しかし先行研究では臥位や立位での骨盤前後傾角度に着目したものは散見されるものの,歩行で評価した報告は渉猟する限り見当たらない.そこで本研究は,股OA患者の歩行時の股関節外転筋群の筋活動様式の特徴を捉える手掛かりを得る前段階として,模擬的な股関節伸展制限を与えた条件で,歩行時の股関節外転筋群の筋活動様式の変化を明らかとすることを目的として行った.【方法】被験者は下肢に既往及び障害を有さない健常若年男性7 人(年齢22.0 ± 0.8 歳,身長168.9 ± 5.9cm,体重64.7 ± 10.1kg)であった.課題動作は,被験者が快適と感じるスピードで行う歩行動作とし,股関節伸展制限を加えない通常条件(以下,条件N)と股関節伸展制限装具により股関節伸展制限を加えた条件(以下,条件S)の2 条件で行った.歩行動作中の運動学的データは,標点マーカを身体各標点に貼付し,CCDカメラ4 台からなる3 次元動作解析システムKinema Tracer(キッセイコムテック社製)により,筋電図学的データは,中殿筋(以下,GMe), 大腿筋膜張筋(以下,TF),大殿筋上部線維(以下,GMa)を被験筋として表面筋電計(メディエリアサポート企業組合社製)を用いて取得した.解析区間は定常歩行となる4 歩目の単脚支持期とし,得られたデータを基にKineAnalyzer(キッセイコムテック社製)を使用して,関節角度,セグメント角度,課題動作時の筋活動量を最大筋力発揮時の筋活動量で正規化した値(以下,%IEMG)を算出した.統計学的解析には統計ソフトウェアSPSS Ver.14.0J for Windows(エス・ピー・エス・エス社製)を用い,Shapiro-Wilk検定によりデータの正規性が認められた場合は対応のあるt検定を,認められなかった場合にはWilcoxonの符号付順位検定を行い,有意水準は5%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に沿った研究であり,研究の実施に先立ち,所属する機関の倫理委員会の承認を得た.また,被験者に対して研究の意義,目的について十分に説明し,口頭及び文書による同意を得た後に実施した.【結果】前額面における骨盤側方傾斜角度の変位量は,条件Nでは4.7 ± 1.7 度,条件Sでは8.2 ± 4.6 度と,条件間で有意な差を認めなかった.TFとGMeの% IEMGは,各々条件Nでは7.2 ± 6.8%,13.6 ± 4.1%,条件Sでは5.9 ± 7.2%,18.0 ± 7.0%と,条件間で有意な差を認めなかったが,GMaは条件Nでは5.3 ± 1.2%,条件Sでは11.1 ± 5.1%と,条件Sが有意に高値を示した(p<0.01).また最大骨盤前傾角度は条件Nでは2.5 ± 7.6 度,条件Sでは15.7 ± 8.7 度と,条件Sが有意に高値を示した(p<0.01).最大骨盤後傾角度は,条件Nでは2.2 ± 6.3 度,条件Sでは-8.6 ± 7.6 度と,条件Sが有意に低値を示した(p<0.05).股関節最大伸展角度は条件Nでは16.0 ± 2.4 度,条件Sでは1.9 ± 7.5 度と,条件Sが有意に低値を示した(p<0.05).【考察】条件Sでは股関節伸展制限装具により股関節最大伸展角度が減少しており,その代償として骨盤前傾角度が増大していることから,股OA患者にみられる骨盤前傾位での歩行に近い状況が再現出来たものと考えられる.また歩行時の股関節外転筋群では,GMaの筋活動量が有意に高値を示した.各股関節外転筋は,筋線維方向と運動方向が一致するときに最も筋張力が高くなるとされている.従って,GMaの筋線維方向を考慮すると,骨盤前傾位はGMaの筋張力がより発揮し易い条件となっているものと考えられる.一方,骨盤側方傾斜角度の変位量は条件間で有意な差が認められず,骨盤側方安定性はGMaの活動量の増加により補償された可能性が示唆された.以上より,股関節伸展制限を有した股OA患者の骨盤側方安定性確保の一要素としてGMaの筋活動が大きく関与している可能性が示唆された.【理学療法学研究としての意義】本研究の意義は,骨盤の前後傾角度の違いが歩行時の股関節外転筋群の筋活動様式に及ぼす影響を,筋電図学的および運動学的な変化から明らかにし,股OA患者の骨盤前後傾角度に応じた股関節外転筋群の筋力強化の必要性を示唆したことである.
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© 2013 日本理学療法士協会
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