抄録
【はじめに、目的】大腿骨頚部骨折は、転倒による受傷が多く日常生活に支障をきたし、歩行の再獲得に時間を有する事が多い。一方で急性期病院では、在院日数の短縮に伴い早期に退院を余儀なくされる事が多いため、早期に歩行の予後を見極める必要がある。大腿骨頚部骨折患者の患肢への荷重率と歩行能力に関する報告は、多く行われている。また、骨接合術と人工骨頭置換術では、軟部組織損傷の程度が異なるが同じ大腿骨頸部骨折の術後として報告されている。その為、人工骨頭置換術後の荷重率に対する歩行機能に関する報告は、ほとんどされていない。そこで今回は、大腿骨頚部骨折後に人工骨頭置換術を施行した患者の患肢への荷重率と歩行補助具、歩行機能についての関係を検討することを目的とする。【方法】対象は、当院にて平成23年12月から平成24年8月までに大腿骨頸部骨折に対して人工骨頭置換術を施行し、認知症がない患者16例(女性16例、平均年齢:75.9±7.1歳、在院日数:30.3±13.8日)を対象とした。荷重率(%)は、市販のタニタ社製の体重計を用いて、平行棒内で両上肢支持なく患肢へ最大荷重させ3秒間安定した荷重を3回計測した。3回の平均荷重を体重で除し算出した値を荷重率とした。歩行機能の指標として、修正Timed up and goテスト(以下修正TUG)を実施した。修正TUGは、平行棒内で手すりを使用して測定した。歩行補助具については、測定時に監視で可能であった補助具を補助が大きい順に順序付けし、平行棒、pickup歩行器、サークル歩行器、4点杖、T字杖とした。測定は、術後1週間毎に退院時まで行った。統計処理には、JSTATを用いて、荷重率と歩行補助具、荷重率と歩行機能との相関については、Spearmanの順位相関係数を用いた。次に1週目(以下1w)・2週目(以下2w)・退院時(以下En)荷重率の比較をFriedman検定を用いて行い、事後検定としてTukey法を用いた。また、1w荷重率とEn荷重率の関係について単回帰分析を行った。各相関の有意水準は、5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】対象者には、本研究の主旨と目的を十分に説明し、書面にて同意を得た。【結果】各補助具使用時の荷重率平均と修正TUGは、平行棒38±11%・修正TUG50.3±31秒、pickup歩行器58±11%・修正TUG23.9±5秒、サークル歩行器62±14%・修正TUG22±8.6秒、4点杖75±17%・修正TUG22.4±4.3秒、T字杖85±12%・修正TUG14.2±5.8秒であった。荷重率と歩行補助具、荷重率と修正TUGとの相関はそれぞれr=0.61(P<0.01)、 r=-0.66(P<0.01)で相関が認められた。1w荷重率は67.4±20%、2w荷重率は80.9±18%、En荷重率は88±12%であった。1w荷重率とEn荷重率に有意な差(P<0.05)と相関(r=0.68、P<0.01)が認められた。【考察】荷重率と歩行補助具の結果より、荷重率の増加によって歩行補助具の補助が軽減することが歩行能力の向上につながる事が示唆された。また、荷重率の向上により修正TUGが減少する事も示唆された。荷重率と修正TUGの間に負の相関があることから修正TUGが術後早期からの歩行機能評価として有用であると考えられる。荷重率の比較については、1w、2wでは荷重時痛や腫脹、患肢への荷重恐怖心の影響のため、荷重率に有意な差が生じなかったと考えられる。2w以降に軟部組織が修復され、荷重時痛や腫脹が軽減するため、Enには患肢への荷重が増加すると考えられる。その為、荷重早期の1wとEnに有意な差が認められた。単回帰分析から、1w荷重率が増加することによってEn荷重率が増加する結果となった。よって、術後早期の荷重率によって退院時の予後予測が出来る可能性があることが示唆された。【理学療法学研究としての意義】人工骨頭置換術後の荷重率が歩行補助具や歩行機能と相関関係があり、荷重率を計測する事により歩行能力や予後予測を行う事が可能であると考えられる。