抄録
【目的】当院では膝前十字靭帯(ACL)再建術はスポーツ種目や競技レベルによって、半腱様筋腱、薄筋腱での再建術(STG法)と骨付き膝蓋腱による再建術(BTB法)を使い分けて行っている。BTB法に関しては文献的に、1.グラフト採取部の疼痛、2.大腿四頭筋筋力回復の遅れが指摘されている。当院ではこれまで移植腱を再建膝から採取する方法であったが、近年、再建膝の筋力の早期回復を目的に腱を健側から採取する方法も施行されている。今回、BTBの採取側の違いによる筋力を中心とした臨床成績の差を検討し、若干の知見を得たので報告する。【説明と同意】【対象】対象は、2009年8月から2012年4月までに当院でBTB法でのACL再建術を行った70名(再再建術及び両側羅患を除く)である。再建膝から腱を採取して移植した群(以下患側BTB群)23名(男7名、女16名)、健側から腱を採取して移植した群(以下健側BTB群)47名(男33名、女14名)の2群を対象とした。尚、対象者には内容を説明し、同意を得た。【方法】比較項目は、(A)筋力、(B)BTB採取部の疼痛、(C)復帰時期とした。筋力の比較項目:筋力測定はCOMBIT CB-2+(ミナト医科学株式会社)を用いた。測定時期は術前と術後6ヶ月での値を用い、項目としては、1.体重支持指数(WBI)、2.角速度60度での等速性膝伸展筋力の値を用いた。BTB採取部の疼痛:筋力測定中に感じる疼痛の有無と、筋力トレーニング中に感じる疼痛を4段階評価(1.疼痛なし2.疼痛あるが気にならない3.疼痛が気になる4.疼痛で出来ない)し調査した。尚、検討方法は患側BTB群と健側BTB群との2群間での比較とし、統計学的処理は対応のないt検定を用い、有意水準は5%未満とした。【結果】(A)1.WBIは健側同士の比較では患側BTB群が健側BTB群よりも有意に筋力が強かった(P=0.0063)。しかし、再建膝同士の比較では健側BTB群が有意に筋力が強かった(P=0.0044)。2. 術前と術後の筋力の比較では、患側BTB群では健側の膝伸展筋力に有意差はなく、再建膝では術後の方が有意に低値となった(P=0.0410)。一方、健側BTB群では健側の膝伸展筋力は術後が有意に低く(P=0.0001)、再建膝では有意差は認められなかった。(B)筋力測定時にBTB採取部の疼痛割合は、患側BTB群で18%、健側BTB群で14%であった。筋力トレーニング中の疼痛は、患側BTB群は1:76%、2:12%、3:12%、4:0%で、健側BTB群は1:69%、2:20%、3:11%、4:0%であった。(C)復帰時期は患側BTB群で平均8.2±1.7ヶ月(6~12)、健側BTB群で平均8.0±1.8ヶ月(6~12)であった。【考察】今回の結果から、患側BTB群は、従来報告されているとおり再建膝の膝伸展筋力の獲得は術後に有意に低値であった。一方、健側BTB群では再建膝の筋力は、術前と術後の比較でも有意差はなく、術後に低下することはなかった。また、WBIにおいても健側BTB群が有意に高いことから、再建膝の膝伸展筋力は、移植腱を反対側から採取した方が、術後に有意に筋力獲得が良好であると示唆される。再再建術の場合には健側からの腱採取には躊躇はないが、初回の再建術から健側の腱を再建するのには賛同が得にくい。しかし、健側から腱採取した場合、再建膝が早期に筋力回復が期待できることが示唆されており、選手の事情により早期復帰を希望される場合には選択されてもよいと考えられた。患側BTB群と健側BTB群の平均復帰期間に有意差はなかったが、術後6か月で復帰している選手は健側BTB群15.0%、患側BTB群で7.7%であった。健側BTB群は術式として健側から腱採取するので健側の膝伸展筋力が、術前よりも術後が有意に低かったことは問題であるが、筋力トレーニングを妨げる主因となる疼痛は、健側から採取した場合も疼痛の観点からは問題がないこともわかった。今回の問題としては、健側BTB群に対しても膝伸展筋のトレーニング指導を再建膝に合わせていたことが考えられた。今後は採取腱部の腱機能を強化することで、健側の筋力トレーニング時期を早期に開始することが可能となり、再建膝と健側の早期筋力回復が望めるものと考える。【理学療法学研究としての意義】今回は筋力値で比較検討したが、膝伸展可動域の制限の有無により筋力は変わるという報告もあるので、患側BTB群と健側BTB群の可動域と筋力の関係を今後追って報告したい。