抄録
【はじめに、目的】 膝前十字靭帯(以下ACL)損傷は、非接触型の損傷が多く、中でもカッティング動作や着地動作での受傷が多いとされている(Boden、2000)。また、受傷肢位は膝軽度屈曲・外反位が多いとされ(Hewatt、2005)、要因としてQ-angleや大腿骨前捻角の増大、Navicular Drop Test(金子ら、2011)、股関節内旋可動域の増大(浦辺ら、2001)などが報告されている。しかし、受傷リスクが高いとされる動作および肢位における膝関節の運動力学的特性と、それらの要因としてあげられる身体特性との関係性についての報告は少ない。本研究では、ACL損傷リスクが高いとされる着地動作において、膝関節の運動力学的特性を明らかにし、かつそれらに影響を及ぼし得る身体特性について検討した。これらの結果からACL損傷危険予測因子を明らかにすることを本研究の目的とした。【方法】 健常女性9名、平均年齢20.8±1.5歳を対象とした。被験者にはPlug-In-Gait Full Bodyモデルに従ってマーカーを身体に貼付し、両手を腰に当てた状態で40cmの台からの着地動作を行い、三次元動作解析装置と床反力計を用いてデータを計測した。着地動作は、LandingとDrop Jumpの2種類を行い、Landingは台からの落下着地、Drop Jumpは接地後すぐに垂直ジャンプをする試行と定義した。接地後膝関節最大屈曲角度の平均が大きい肢を被験肢とし、膝関節最大屈曲時の膝外反角度、および屈曲/外反モーメントを抽出した。身体特性に関しては、Q-angle、大腿骨前捻角、Navicular Drop Test、股関節内旋可動域を測定した。測定データは正規性の検定を行った後、Landing-Drop Jump間の各パラメータの比較には対応のあるt検定、Landing・Drop Jump時の外反モーメントと身体特性との関連についてはステップワイズ法を用いて解析した。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は、埼玉県立大学の倫理委員会の承認を得て遂行した。また、本研究に関する十分な説明を口頭ならびに書面で行い、その上で同意書に署名が得られた被験者を対象とした。【結果】屈曲/外反角度はLandingで86.2°/13.2°、Drop Jumpで69.0°/8.0°であり、どちらもLandingで有意に大きかった(p</I><0.01)。一方、屈曲/外反モーメントはLandingで1420.6N・m/502.0 N・m、Drop Jumpで2459.6 N・m/953.1 N・mであり、どちらもDrop Jumpで有意に大きかった(p</I><0.01)。運動学的データと身体計測データの関係は、Landing時の外反モーメントとQ-angleにのみ影響が示唆された。【考察】Landingと比較してDrop Jumpでは、両脚着地動作時の屈曲/外反角度は小さく、屈曲/外反モーメントは大きいことが示された。屍体膝を用いた研究で、膝関節の屈曲角度が30°~40°と小さい場合の方が、大きい場合よりも下腿の前方引き出しの割合が大きくなることが報告されている(Marcusら、1993)。ジャンプ着地動作時の筋活動に関しては、女性では膝の屈曲角度が小さいほど、大腿四頭筋に対するハムストリングスの活動量比が低いとの報告がある(小林ら、2003)。これら先行研究と本研究結果から、Drop Jumpでは膝関節屈曲角度が有意に小さいため、より下腿の前方引き出しが生じやすい肢位であり、かつ屈曲モーメントは大きい数値であることから、大腿四頭筋の活動量が高くなっていることが推察される。以上のような運動力学的特性から、Drop JumpはLandingに比べ、よりACL損傷のリスクが高いことが示唆された。また、力学的特性と身体特性の関係は、ステップワイズ法によりLanding時の外反モーメントとQ-angleにおいてのみ認められた。その他のデータにおいても膝関節外反モーメントとの相関において一定の傾向性が認められたため、今後被験者数を増やすことで関連が認められる可能性があり、さらなる研究の必要性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】本研究では、LandingよりもDrop JumpでACL損傷が発生する可能性の高いことを、その運動力学的動作特性から明らかにした。この結果に併せて、どのような身体特性を持つ人が同様の動作特性をもつのかということが解明されることで、一般的な理学療法評価でACL損傷のリスクが予測可能となり、本研究が予防医学および損傷後の理学療法介入に貢献することが出来ると考える。