理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: C-O-03
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一般口述発表
前方進入法における片側人工股関節全置換術後4日目退院クリニカルパスの検討
術前理学療法の必要性について
濱崎 圭祐妹尾 賢和澤野 靖之石垣 直輝平尾 利行田巻 達也老沼 和弘
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抄録

【はじめに、目的】近年の診療報酬包括化や手術手技の進歩により,人工股関節置換術(THA)患者の在院日数は短縮傾向にある.当院では前方進入法による人工股関節全置換術(DAA-THA)に対してクリニカルパス(パス)を導入し,2012年2月から術後4日目退院(在院期間6日)のパスを運用している.現在我々はその運用とともにパスの妥当性の検証を進めているがADLとの関連性は検証されていない.そこで本研究の目的は,片側DAA-THA術後4日目退院パスの達成率を検討し,パスを達成できなかった症例のADL状況をWOMACを用いて調査することである.【方法】2012年2月から5月までに施行した片側DAA-THA137例(初回THA129例,revision THA8例)を対象とした. 内訳は女性122名,男性15名,平均年齢69.3歳(38-87歳)であった.各診断名は,変形性股関節症120例,大腿骨頭壊死症3例,大腿骨頚部骨折術後4例,関節リウマチ2例,revision THA8例であった.検討項目はパスの妥当性に対して在院日数,パス達成率,退院先,合併症の有無を調査した.理学療法におけるアウトカムは,階段昇降自立,300m以上のT字杖歩行自立,屋外歩行自立と3点である.またADLの調査は術前のWOMAC点数,入院期間中の各退院基準獲得日数を調査した.WOMACは股関節および膝関節の変形性関節症患者の健康状態を測る自己記入式の評価表であり,THAの術後評価法としても推奨されている.内容は痛み,こわばり,身体機能面に分かれており,健康状態が悪いほど合計点数が高値を示す.術前のパス達成群とパス非達成群のWOMAC合計点と各項目点をMann-WhitneyのU検定を用いて検討した.また,パス達成群とパス非達成群の入院期間中の各退院基準獲得日数をMann-WhitneyのU検定を用いて検討した.それぞれ有意水準は5%とした.【倫理的配慮、説明と同意】本研究は,ヘルシンキ宣言に基づき対象者に人権擁護がなされていることを説明し同意を得て実施した.【結果】術後の退院までの日数は4.4±1.9日であり,パス達成率は88.3%であった.全症例が自宅へ退院し,感染,症候性静脈血栓塞栓症,再手術を要した症例はなかった.術前のWOMAC合計点はパス達成群42.6±19.6点,パス非達成群55.3±10.3点,痛みの点数ではパス達成群9.3±5.9点,パス非達成群10.5±3.37点,こわばりの点数ではパス達成群3.7±2.1点,パス非達成群4.2±1.1点,身体機能面の点数では,パス達成群29.7±15.2点とパス非達成群40.3±7.7点となり,合計点,身体機能面において有意差を認めた.痛みとこわばりにおいて有意差はみられなかった.退院基準の獲得日数は,階段昇降でパス達成群2.3±0.5日,パス非達成群4.3±3.8日,T字杖歩行はパス達成群2.6±0.5日,パス非達成群5.3±4.2日,屋外歩行はパス達成群3.1±0.5日,パス非達成群6.4±4.2日であった.すべての項目でパス非達成群の獲得日数が有意に遅延していた.【考察】DAA-THAの術後4日目退院クリニカルパス達成率は88.3%であった.阿部らはクリニカルパスには80%程度の症例がパス通りにケアが進み,20%は逸脱,脱落するとされる80-20ルールがあると述べている.本研究の結果からも80-20ルールで判断すると20%までの逸脱が許されると考えられ,妥当性が証明された.更に在院期間の短縮に起因する合併症を認めず,退院時歩行能力も問題のない結果であった.またWOMACの調査結果から,パス達成群に比べパス非達成群が,術前におけるWOMACの合計点が高く,特に身体機能面の点数が高い結果となり,術前の身体機能低下が退院基準の獲得日数遅延と関連することが示唆された.WOMAC身体機能面の点数が高い,つまり身体機能が低い患者に対して術前から可動域,筋力向上を目的とした理学療法を行うことにより,ADL動作の早期獲得が可能となりパス達成率の向上につながる可能性があると考える.【理学療法学研究としての意義】今回の結果から,当院のDAA-THA術後4日目退院パスは妥当性が証明されたが,パスの非達成群は存在する.パス達成率の向上のために,術前からWOMACの調査を行い,身体機能の低下が見られる患者に対して術前理学療法を行うことが重要である.

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© 2013 日本理学療法士協会
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