抄録
【はじめに、目的】理学療法士の能力は多様な要素で構成されていると考えられるが、その内容により比較的早期に獲得される能力や、充分な臨床経験を重ねる必要のある能力といった難易度が存在すると考える。本研究の目的は、理学療法士の資格取得後の継続教育において、1年目から3年目までの能力を横断的に調査し、その難易度および経験年数間の差を調査することである。【方法】本研究は、理学療法における臨床能力評価尺度(Clinical Competence Evaluation Scale in Physical Therapy:以下CEPT)を用いて調査を行った。CEPTは7つの大項目(理学療法実施上の必要な知識・臨床思考能力・医療職としての理学療法士の技術・コミュニケーション技術・専門職社会人としての態度・自己教育力・自己管理能力)と53の評価項目で構成された、4段階(合計53~212点:点数が高いとより能力が高い)の評価尺度である。対象は、関東圏内の21の医療施設に所属し、資格取得後の経験年数が3年目以下の理学療法士とした。対象者にCEPTを用いて自己評価を依頼した。得られたデータは7つの大項目毎に、CEPTの段階付けで「自立している状態」である3点以上と評価した評価項目の割合を単純比較した。さらに53の評価項目毎に、経験1年目・2年目・3年目の3群に分け、Kruskal-Wallis検定および多重比較を行った。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は所属する大学院の疫学研究に関する倫理審査委員会より承認を得ている。無記名にて実施したため、対象者に対して書面にて研究内容を説明した。研究への同意は、施設管理者のみ同意を得て対象者個人に対して同意書を作成せず研究への協力をもって同意を得たものとした。【結果】対象者数は278名であり、1年目123名・2年目82名・3年目73名であった。全データの4段階の割合は、「1点」10.6%、「2点」42.6%、「3点」44.7%、「4点」2.0%であった。大項目内で3点以上をつけた評価項目の割合を7つの大項目別にみると「理学療法実施上の必要な知識」21.2%、「臨床思考能力」34.1%、「医療職としての理学療法士の技術」33.7%、「コミュニケーション技術」53.5%、「専門職社会人としての態度」69.0%、「自己教育力」58.9%、「自己管理能力」60.6%であった。経験年数間の差はKruskal-Wallis検定により38の評価項目に有意差を認めた。多重比較の結果も含め、53の評価項目をtype1(全経験年数間で有意差あり)、type2(1・2年目と1・3年目間で有意差あり)、type3(2・3年目と1・3年目間で有意差あり)、type4(1・3年目間のみで有意差あり)、type5(全ての経験年数間で有意差なし)に分けることができた。type1は大項目の「臨床思考能力」、「医療職としての理学療法士の技術」に含まれる評価項目が多く該当した。type2は大項目の「理学療法実施上の必要な知識」、「医療職としての理学療法士の技術」、「コミュニケーション技術」に含まれる評価項目が多く該当した。type3は大項目毎での傾向はなく3つの評価項目のみが該当し、比較的段階付けが低い項目が含まれた。type4とtype5は大項目の「専門職社会人としての態度」、「自己教育力」、「自己管理能力」に含まれる評価項目が多く該当した。【考察】全ての経験年数の結果に関して、7つの大項目毎の段階付けの傾向は、知識・臨床思考・技術面といった認知領域・精神運動領域の項目は比較的低く評価していたが、態度や向上心等の情意領域は比較的高い評価であり、認知領域と精神運動領域は難易度が高いことが示唆された。経験年数間の差に関しては、認知領域・精神運動領域は経験年数を重ねた対象者の方がより点数を高くつけており、資格取得後の業務内での学習や研修会等への参加によって獲得されたものと考える。情意領域に関しては、1年目から比較的高い点数をつけているため、早期に能力を獲得していると考えられる。しかし特定の領域に関係なく、type3のように1・2年目間の点数の差はないが、2・3年目で差がでる項目もあり、ある程度の基本的な能力が獲得された後に、他の能力が向上するといった階層性も存在すると考えられる。今後は、縦断的に能力の変化を追っていく必要があると考える。【理学療法学研究としての意義】理学療法士に必要な能力の難易度や、経験年数の違いによる能力の差を調査することにより、理学療法士がどのように必要な能力を獲得しているかが明らかとなり、今後必要とされると考える継続教育プログラムの基礎資料になり得ると考える。