理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: A-P-21
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ポスター発表
道具操作の運動錯覚時の身体所有感および運動主体感と脳活動の関係
若田 哲史森岡 周
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キーワード: fNIRS, 道具操作, 身体所有感
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抄録

【はじめに】ヒトは感覚器により情報を知覚し脳内に身体図式の再現を起こすが、身体図式は外部刺激の変化により容易に変化する。Kaneko(2007)やMurata(2007)は、モニターに提示された手の運動を受動的に観察した場合、自分自身が手を動かしているような錯覚が惹起され一次運動野および頭頂葉が賦活すると報告している。一方でIriki(2004) は、サルが道具を用いて餌を引き寄せる際、手の体性感覚領域で活動する頭頂葉のバイモダールニューロンが、道具全体の長さを含み拡大することを報告した。このことから、道具操作中の道具の先端部をモニターで観察した場合においても運動錯覚が生じる可能性が考えられる。しかしこれらについての報告は見当たらない。Gallagher(2000)は、身体図式の変化は身体所有感および運動主体感と関係があると報告している。本研究は道具の先端をモニターで観察した時の脳活動を測定し、脳活動と身体所有感および運動主体感との関係を明らかにすることを目的とする。【対象と方法】医学的な既往のない右利き健常成人12 名(男性2 名,女性10 名,平均年齢±標準偏差:35.75 ± 9.06)が実験に参加した。被験者は椅子に座り、手をBOX中に入れ視覚遮断された。BOX上に課題提示用のiPad(Apple製)を設置した。被験者は、20 秒の安静閉眼の後、iPad画面上に提示された動画を見るよう求められた。課題時間は20 秒とし、課題終了後、被験者は安静状態に戻った。8 セットを連続して実施した。提示動画は道具(トング)にて木片を把持する動作とし、錯覚条件、非錯覚条件をランダムに4 回提示した。映像はトングと木片のみの提示に止め、手は映し出されなかった。脳血流量の測定には、機能的近赤外線分光装置(functional Near-infrared Spectroscopy:以下fNIRS、島津製作所製FOIRE3000)を用いた。光ファイバホルダは国際10-20 法に従い前頭領域・頭頂領域を覆った。酸化ヘモグロビン(以下oxyHb)値を抽出した。抽出したoxyHb値は、課題提示前10 秒をrest、課題開始から終了までをtaskとし、標準化処理(effect size:以下ES)を行い、頭頂領域・下前頭領域、前頭前野に相当する領域(Region of Interest:以下ROI)のチャンネルを加算平均した。また、各課題における身体所有感・運動主体感の鮮明度を7 段階のVisual Analogue Scale(以下VAS)を用いて評価した(Botvinick1998,Gallagher2000)。なお、上昇系列に錯覚の強さを示す。錯覚条件と非錯覚条件のESをROIごとにpaired t-testを用いて比較した。またVASをWilcoxonの符号付き検定を用いて比較した。さらに、有意差がみられたROIについては、ESとVASの間のPearsonの相関係数を算出した。統計学的な有意水準は5%未満とした。【説明と同意】本研究は本学研究倫理委員会(H23-23)の承認を受け、研究実施の際には参加者に対しその趣旨を十分に説明し、同意を得た上で実施した。【結果】ESの比較では、右頭頂領域において錯覚条件が非錯覚条件よりも有意に高値であった(p<0.05)。VASの比較では、身体所有感・運動主体感において錯覚条件が非錯覚条件より有意に高値であった (p<0.05)。ESとVASの相関関係では、右頭頂領域においてESと身体所有感の間に有意な負の相関がみられた(r=-0.74,p<0.05)。【考察】身体所有感・運動主体感のVASにおいて錯覚時に高値を示したことから、道具操作の運動錯覚が生じることが明らかになった。また、道具操作における視覚的な運動錯覚によって右頭頂領域の活性化が見られた。過去には、振動刺激を用いた運動錯覚時において右頭頂領域に有意な活動が認められている(Naito 2005,今井2012)。しかしながら、今回右頭頂領域の活動と身体所有感に関する主観的錯覚感に負の相関がみられたことは、むしろ自己運動と視覚フィードバックの不一致による影響であることが示唆され、視覚フィードバックの不一致が大きくなれば、右頭頂領域の活動が増加し身体所有感は消失する結果(Shimada 2005)を支持することになった。いずれにしても、右頭頂領域が身体運動のみならず道具操作時の運動錯覚に関与することが示され、道具の有無問わず左右半球の側性化が明らかになった。【理学療法学研究としての意義】本研究結果は、身体失認に代表される高次脳機能障害に関する理学療法研究の基礎的データとして位置づけられる。

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© 2013 日本理学療法士協会
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