理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: A-S-01
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セレクション口述発表
静止立位中の身体内部に対する注意喚起は重心動揺を増加させ大脳皮質活動を低下させる
植田 耕造中野 英樹大住 倫弘森岡 周
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抄録
【はじめに、目的】近年,ヒトの立位姿勢制御に対する大脳皮質の関与が示唆されており,特に注意機能の影響が注目されている.例えば,認知課題付加により身体外部に対して注意を促し,身体内部への注意を減らすと立位重心動揺が減少するといった報告(Nafati,2011)がある.その一方で,身体内部へ注意を向け動揺を制御しようと試みた時は,リラックス時と比べ動揺が減少する報告(Reynolds,2010)もある.このように,身体内部あるいは外部に対して注意を向けることによる立位姿勢制御への影響は一定の見解を得ていない.また,身体内部への注意により動揺が減少するメカニズムは,感覚情報処理や精密な運動出力の向上による影響である可能性が述べられおり(Reynolds,2010),それには大脳皮質の運動感覚領域の活性化が関与すると考えられるが,その活動を調べた報告はない.本研究の目的は,身体内部,外部への注意が重心動揺に与える影響と,その背景となる大脳皮質活動を調べることである.【方法】対象は若年成人7 名(男性6 名,年齢21.5 ± 0.9)とした.まず,座位でリラックスしている状態と,認知課題を行う認知条件中の脳波測定を20 秒間,各2 回ずつ施行した.認知課題は実験者がランダムに言った1 〜9 までの数字を記憶し,20秒後に復唱する課題とした.立位は開眼閉脚とした.課題は以下のRelax,Still,Dualの3 条件(各20 秒)を,順序はランダムで各1 回ずつ(1 セット)実施し,それを合計2 セット行った.その際の重心動揺と脳波を測定した.各条件の課題前の指示は,Relax条件は「実験中と思わずに,十分にリラックスして立って下さい」とし,Still条件は「体の動揺に十分に集中して,可能な限り動揺しないようにして下さい」とした(Reynolds,2010).Dual条件は認知課題を立位で行い,指示は「可能な限り数字を暗記して下さい.」とした.なお,立位中に体の動揺に対して注意を向け制御しようと努力した程度を,1(努力していない)〜7(全力で努力した)までの範囲で,7-point numerical rating scale(NRS)を使用(Vuillerme,2007)し,各課題施行後に調べた.重心動揺測定は重心動揺計G-6100 (ANIMA社製)を用い,sampling周波数は100Hzとした.また,脳波の測定には高機能デジタル脳波計Active Two System (BioSemi社製)を用い,64ch,sampling周波数1024Hzで記録した.脳波の解析にはEMSE Suite(Source Signal Imaging社製)を用い,各条件において,1 施行ごとに10 epochs(1 epoch は2 秒間)を加算平均し,low(9-11Hz),high(11-13Hz) α帯域の各々において抽出したpower値からERD (event-related desynchronization)を算出した(Del Percio,2007).ERDは,ERD=(E−R)/R× 100 の式を用い,Relax,Still条件はEに各々の,Rに座位relax条件のpower値を,Dual条件はEにDual条件の,Rに座位認知条件のpower値を挿入し算出した.統計解析は,重心動揺および脳波の各ChのERDを反復測定の分散分析(後検定にBonferroniの多重比較法)を用いて,NRSをFriedman検定(後検定にWilcoxonの符号付順位検定)を用いて実施した.また,NRS,重心動揺,脳波power値の各々の相関係数を,PearsonまたはSpearmanの相関係数を用いて実施した.有意水準を5%とし,10%以下を傾向有りとした.【倫理的配慮、説明と同意】全ての被験者に対して,研究内容を紙面および口頭にて説明し,同意を得た.なお本研究は本学研究倫理委員会(受付番号H24-23)にて承認されている.【結果】NRSは,Still条件で他2 条件と比べ有意な増加を認めた(p<0.01).重心動揺は,総軌跡長と単位軌跡長において,Still条件で他2 条件と比べ有意な増加を認めた(p<0.05). ERDは,Dual条件で他2 条件と比べ,high α帯域のC5,Low α帯域のCP5 において,また,Relax,Dual条件でStill条件と比べ,high α帯域のC4 において減少傾向を認めた(ANOVA p<0.05,後検定p<0.10).NRSは総軌跡長,単位軌跡長と有意な正の相関を認め(p<0.05, ρ=0.36,0.49),脳波のpower値とは,C4 において有意な正の相関を認めた(p<0.01, ρ=0.46).脳波power値と重心動揺は,C4 において総軌跡長,単位軌跡長と有意な正の相関を認めた(p<0.01, r=0.39).【考察】NRSと重心動揺,またそれらの相関の結果から,Still条件のように身体内部へ注意が向いている時は動揺が増加し,動揺に注意を向け制御しようとするほど,逆に動揺が増加することが示された.さらに本研究のERDの結果や,power値とNRS,重心動揺の相関の結果からは,身体内部への注意が運動感覚領域の活動の低下をもたらし,重心動揺を増加させている可能性が示唆された.【理学療法学研究としての意義】本研究は,立位姿勢制御に対する介入として,身体内部へ注意を向けることが必ずしも有効とは言えない可能性を,重心動揺と大脳皮質活動の結果から示した.
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© 2013 日本理学療法士協会
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