理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: A-P-41
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ポスター発表
歩行速度の違いが二重課題下の歩行に与える影響
河内 淳介浅川 大地福原 隆志川越 誠坂本 雅昭臼田 滋
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抄録
【はじめに、目的】日常生活における歩行では,信号や段差を確認する,会話をする,といった複合した課題を遂行していることが多い。また環境に応じた歩行速度や歩幅などの調整が要求される。高齢者はこれらの複合課題能力が低下することで,転倒リスクが増加するとされている。近年,二重課題下での動作分析,特に歩行に関して検証された研究が数多くみられる。しかし比較的短距離のものが多く,また歩行速度との関連を示したものは少ない。歩行速度の増減は歩行という運動課題の遂行に必要な注意量を増加させ,安定性に影響を及ぼすことが考えられる.そこで本研究では認知課題の有無による歩行の変化,また歩行速度による注意量の違いが,それらの変化に及ぼす影響について検討することを目的とした。【方法】対象は健常大学生19 名(男性10 名,女性9 名,平均年齢21.6 ± 1.0 歳)とした。認知課題としてストル−プテスト,運動課題としてトレッドミル歩行を行った。ストループテストとは,表示される色名ではなくその文字色を答える視覚的認知課題であり,赤青黄緑の計4 色,60 コマ/分のものを使用した。課題内容はトレッドミル歩行のみを行う単一課題(single task:以下ST)と, ストル−プテストを行いながらトレッドミル歩行を行う二重課題(dual task:以下DT)とし,歩行速度5 条件(至適歩行速度,至適歩行速度+1km/h,+2km/h,−1km/h,−2km/h)とそれぞれに認知課題の有無2 条件の計10 条件とした。計測時間はSTを20 歩行周期分,DTを1 分間とし,それぞれ中央の10 歩行周期分を解析対象とした。測定機器として3次元動作解析装置VICON612を使用した。マ−カ−貼付位置は第7頚椎棘突起,両踵骨後面中央の計3点,サンプリング周波数は60Hzとした。測定項目は1 歩行周期の平均時間,1 歩行周期時間の変動係数,歩幅の平均距離,歩幅の変動係数,1 歩行周期あたりの体幹の左右動揺距離の平均値とした。またデジタルビデオカメラで撮影した映像と音声より,ストル−プテストの誤答数を計測した。統計処理にはSPSS19.0 を使用し,各測定項目について歩行速度条件と認知課題の有無の2 要因による反復測定2 元配置分散分析を行った。その後認知課題の有無毎に速度条件間で多重比較,速度条件毎に認知課題の有無間で対応のあるt検定を行った。また誤答数について歩行速度条件のみの反復測定1 元配置分散分析を行った。有意水準は5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】被験者に対し,研究内容と起こり得る危険について口頭および書面を用いて十分に説明を行い,同意を得た。【結果】1 歩行周期の平均時間(0.94 ± 0.04 から1.78 ± 0.43 秒)では,歩行速度と認知課題の有無で交互作用がみられ(p<0.01),低速度条件においてSTと比較しDTで平均時間の短縮が有意であった。歩幅の平均距離(40.12 ± 5.35 から77.39 ± 8.01cm)はSTと比較しDTで低値となる傾向があり,−2 km/h,−1 km/h,± 0km/hで有意であった(p<0.01)。1 歩行周期時間の変動係数(1.61 ± 0.82 から3.87 ± 1.38%),歩幅の変動係数(3.76 ± 1.29 から8.59 ± 6.05%)では,速度間でのみ有意差がみられた(p<0.01)。1 歩行周期あたりの体幹の左右動揺距離の平均値(66.37 ± 11.10 から148.78 ± 38.50cm)はSTと比較しDTで高値となる傾向があり,± 0 km/h(p<0.05),+1 km/h(p<0.01),+2km/h(p<0.01)で有意であった。誤答数(2.32 ± 2.58 から2.79 ± 3.41 回)は速度間で有意差は見られなかった。【考察】DT条件では認知課題への注意を要求されることで歩行へ配分される注意量は減少し,歩行の不安定性が増大することが考えられる。それに対し健常成人では,歩行周期時間,歩幅を短縮し両脚支持時間の割合を増加させることで,歩行の安定化を図っていると考えられた。これらの変化が低速度条件において顕著であったことから,課題遂行に必要な注意量は低速度で最も大きくなると考えられる。体幹の左右動揺距離はDT条件下で有意に高値を示し,二重課題下における歩行への影響,転倒リスクの増大との関連性を示唆していた。高速度において変化が顕著であったのは,1 歩行周期あたりの総動揺距離として算出したため,DTで歩行周期時間の短縮がみられる低速度条件においては有意差が出なかったことが考えられる。【理学療法学研究としての意義】本研究において,速度の違いにより歩行動作に必要とされる注意量は変化することが示唆された。今後,複合課題能力が低下するとされる高齢者を対象に検討することで,転倒リスクの予測や歩行能力の評価に有用な指標となることが考えられる。
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© 2013 日本理学療法士協会
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