理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: A-P-42
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ポスター発表
ペダリング運動に伴う脳の可塑的変化 磁気共鳴画像法(MRI)を用いた灰白質体積変化の検討
森田 とわ山口 智史立本 将士前田 和平田辺 茂雄近藤 国嗣大高 洋平田中 悟志
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キーワード: 運動学習, 可塑性, VBM法
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抄録
【はじめに、目的】両脚交互運動であるペダリング運動は、歩行に類似した筋活動の賦活が可能であり、脳卒中後の下肢運動機能障害のリハビリテーションとして使用されている。しかしながら、ペダリング運動に伴う大脳皮質の可塑的変化の詳細については、未だ明らかではない。本研究では、健常者を対象として5 日間のペダリング運動前後における大脳灰白質の局所的な体積変化を、磁気共鳴画像計測(magnetic resonance imaging: MRI)とvoxel-based morphometry (VBM)解析(Ashburner & Friston, 2000)により明らかにする実験を行った。【方法】対象は健常成人26 名とし、介入群14 名(年齢:25.0 ± 3.8 歳,男性10 名)、非介入群(統制群)12 名(年齢:24.5 ± 1.1歳,男性8 名)とした。介入群は5 日間連続でペダリング運動を行った。ペダリング運動の初日と最終日に頭部解剖MRI画像を計測し、VBM解析によりペダリング運動に伴う大脳灰白質の局所的な体積変化を検討した。非介入群はペダリング運動を行わず、5 日間の間隔をあけて同様のMRI画像を計測した。ペダリング運動は、StrengthErgo240(三菱電機エンジニアリング社製)を使用し、設定はアイソトニックモード5Nmとした。行動計測課題は、ペダル回転速度を変動させることにより、ディスプレイ上を上下に移動するマーカーを不定周期の上下曲線に合わせるトラッキング課題とした。被験者は1 日20 分のペダリング運動を5 日間連続で実施した。データ解析は、トラッキングの曲線とマーカーの追跡線との誤差面積(root mean square : RMS)を算出した。統計解析は、学習効果の評価をするため、課題のRMS値と日にちの経過との間でPearsonの相関係数を算出した。有意水準は5%とした。MRI計測には、フィリップス社製1.5 テスラMRI(Intera)を使用した。フィールドエコー法によるT1 コントラスト画像を用い、以下のパラメータで全脳領域をカバーする範囲をペダリング運動の初日と最終日で計2 回撮像した(repetition time; TR = 9.9 ms, echo time; TE = 4.6 ms, flip angle; FA = 8°, field of view; FOV = 256 mm, matrix = 256 x 256 x 170, voxel size = 1 × 1 × 1 mm, 170 axial slices)。解析にはSPM8およびVBM8 toolboxを使用した。まず得られたMRI画像を、灰白質、白質、脳脊髄液の3 領域に分離した。この分離には、標準脳座標空間における確率密度分布マップ(DARTEL template, Ashburner, 2007)を用いた。その後、8mm幅のハウチ幅を持つガウスカーネルによって空間的なスムージングを行った。このような空間的データ処理を実施した灰白質画像に対して、ペダリング運動前後での体積変化をボクセルごとに対応のあるt検定で実施した。解析の対象とする脳領域は、ペダリング運動時の脳活動がポジトロン断層撮像を用いて報告されている下肢一次運動野領域(Talairach標準空間座標x=7, y=-31, Z=62 を中心とした半径20mmの領域)とした(Christensen et al., 2000)。有意水準は0.5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】所属機関の倫理審査会により認可され、事前に全ての対象者に研究内容を説明し、同意を得た。【結果】日にちの経過と共にトラッキング誤差は有意に減少していった(r=-0.63)。このことは、介入群の被験者が新規な環境におけるペダリング運動に順応していったことを意味している。また、ペダリング運動実施前に比べて5 日後において下肢一次運動野の灰白質体積が有意に増加した(ピークの座標位置 x = -5, y = -48, z = 51; t統計値 = 3.86, p < 0.001, cluster size = 68 voxels)。このことは、介入群において5 日間のペダリング運動の実施に伴い下肢一次運動野において脳の形態的な可塑的変化が生じた可能性を示唆している。一方、非介入群では、下肢一次運動野において有意な体積の差は認められなかった。【考察】本研究の結果から、健常成人の5 日間のペダリング運動に伴い、下肢一次運動野領域の灰白質体積が増加するという新たな知見を得た。近年、ヒトの運動学習に伴い、灰白質の局所的な体積変化が生じることがMRIとVBM法を使った研究により相次いで報告されている(例えばDraganski et al., 2004; Boyke et al., 2005)。本研究では、理学療法で使用される運動介入においても、大脳皮質運動野において形態的な変化が生じうる可能性を初めて示した。今後、脳卒中患者でもペダリング運動の実施によって同様の灰白質の可塑的変化が認められるか、およびその変化がどのように機能回復と関連しているかを検討する必要がある。【理学療法学研究としての意義】今回観察されたような運動やトレーニングに伴う灰白質体積の増加は、今後知見が充分に蓄積されていけば、理学療法の効果を非侵襲かつ定量的に評価する上での新しい画像診断法となり得る可能性がある。
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© 2013 日本理学療法士協会
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