理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: C-P-04
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ポスター発表
加齢による脊柱可動域の検討
佐藤 成登志小林 量作地神 裕史古西 勇山本 智章
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キーワード: 加齢, 脊柱可動域, Spinal Mouse
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抄録

【はじめに, 目的】 脊柱アライメントを簡便かつ定量的に評価するために,近年,脊柱計測分析器Spinal Mouseを用いた報告がある.我々は第44回の本学術大会において腰痛疾患例の脊柱アライメントの特徴について報告した.しかし,その比較となる健常データが少なく,青年期に偏るなど結果も明確ではない.そこで第45回,第46回,第47回の同学術大会では,20~90歳までのデータを基に脊柱アライメントの特徴の違いを明らかにした.今回は,脊柱可動域に着目して,成人群,前期高齢者群,後期高齢者群間の比較および年齢と脊柱可動域との関係を検討した.【方法】 第45回本学術大会の報告で,脊柱アライメントは男女間において有意差があったことを受けて,今回の対象は,健常成人女性73名(22~96歳,平均年齢58.7±22.7歳)とした.さらに,20歳以上~59歳以下31名(以下,成人群),60歳以上~74歳以下23名(以下,前期高齢者群)と75歳以上19名(以下,後期高齢者群)の3群に分類した.但し,現在腰痛のある方や膝関節の伸展制限のある方は対象から除いた.脊柱計測分析器Spinal Mouse(Index社製)を用い,立位姿勢(普段立っている安楽立位姿勢)における矢状面の脊柱可動域を測定した.脊柱可動域は,第7頸椎と第3仙椎を結んだ直線と垂線とでなす角度とし,体幹前屈可動域,体幹後屈可動域,体幹全可動域(前屈‐伸展)を測定した.体幹前屈可動域,体幹後屈可動域と体幹全可動域における成人群,前期高齢者群と後期高齢者群間との比較および体幹前屈可動域,体幹後屈可動域と体幹全可動域と年齢との関係を統計学的に検討した.年齢との関係は,単回帰分析を行い,目的変数を脊柱可動域,説明変数を年齢とした.尚,有意水準は5%とした.【倫理的配慮,説明と同意】 本研究は当大学の倫理委員会の承認を得たうえで,全対象者には,本研究の趣旨を説明し同意を得て行った.【結果】<体幹前屈可動域,体幹後屈可動域と体幹全可動域における成人群,前期高齢者群と後期高齢者群間との比較> 体幹前屈可動域は,成人群114.8度,前期高齢者群111.9度,後期高齢者群93.0度で有意に後期高齢者群の方が小さかった(p<0.01).体幹後屈可動域は,成人群30.6度,前期高齢者群32.0度,後期高齢者群13.6度で有意に後期高齢者群の方が小さかった(p<0.01).体幹全可動域は,成人群145.4度,前期高齢者群143.9度,後期高齢者群107.0度で有意に後期高齢者群の方が小さかった(p<0.01).<体幹前屈可動域,体幹後屈可動域と体幹全可動域と年齢との関係> 年齢によって,体幹前屈可動域,体幹後屈可動域および体幹全可動域を予測できる有意な回帰式が得られた(体幹前屈可動域:R=0.35 p<0.01,体幹後屈可動域:R=0.36 p<0.01,体幹全可動域:R=0.43 p<0.01).【考察】 高齢者になるにつれて姿勢は変化すると言われている.加齢に伴い,腰背部筋の柔軟性や筋力の低下が起こり易くなり,胸椎,腰椎および仙骨の角度は変化し,脊柱アライメントや脊柱可動域に影響するものと考えられる.本研究では,成人群,前期高齢者群,後期高齢者群の3群に分類し,脊柱可動域について検討した結果,75歳以上の後期高齢者群で有意に小さかった.また,先行研究では,20歳~50歳代位までは腰椎前彎角および仙骨傾斜角の大きな変化は認めなかったが,60歳代から徐々に減少し,80歳代で有意に減少した.下肢や体幹の筋量は,50歳代から有意に減少するとの報告がある.加齢により脊柱を支えている筋量が減少し,60歳代位から脊柱アライメントの変化に影響を与え,75歳位から脊柱可動性が小さくなり,80歳代位で明らかな脊柱アライメン変化をもたらすものと考えられる.また,年齢から体幹の可動域を予測できることが明らかになった.今後はさらに,年齢以外の要因を検討しながら,加齢による脊柱可動域変化のメカニズムを解明することが必要である.【理学療法学研究としての意義】 本研究は,腰痛疾患例の姿勢の影響を検討するためのコントロールデータとして,健常者データを構築している.加齢に伴う脊柱アライメントの変化や脊柱可動性の特性を知り,そのメカニズムを解明することは,理学療法学において大変意義のある研究と考える.

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© 2013 日本理学療法士協会
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