抄録
【はじめに、目的】厚生労働省告示において関節置換術後の状態は回復期リハの対象疾患とされ、人工股関節全置換術後患者(以下THA患者)にする回復期リハが多くの施設で実施されている。その役割は急性期病院からの患者を早期に受け入れ、可能な限り短期間に障害の改善を図り、健康な状態で地域生活に復帰させることである。しかしTHA患者の主観的健康感は国民標準値に至るまでに1年を要するとの報告がおり、術後早期からの対策が求められている。主観的健康感に影響する要因は体幹・股関節の関節可動域や筋力が関連因子であるとの報告がなされているが、過去の報告は横断研究のため術後早期から症例を予測し、対策を立てる上では、不十分な点が少なくない。また心理的要素が影響することが推察されるが、これらの因子を含めた縦断的な検討もされていない。回復期リハ病院を退院するまでに、主観的健康感が一定のレベルに達しない者を、転院時点で予測することができれば、回復期リハチームが早期から対策を考えることが可能となると思われる。本研究は回復期リハ病院における、退院時の主観的健康感に与える転院(入院)時の心身機能の影響と、抽出された予測因子の診断特性を提案することを目的に実施した。【方法】対象は変形性股関節症により他院にてTHAを実施し、当院に転院した女性患者30名(平均70.1±10歳、BMI24.2±4.1)とし、研究デザインは前向き縦断研究とした。転院時点(術後2週)に独立変数である体幹筋厚、等尺性股関節筋力、体幹・股関節可動域、筋短縮、変性椎間数、腰椎・骨盤アライメント、脚長差を計測し、術中出血量、投薬の有無をカルテから聴取した。精神機能として自己効力感を人工関節置換術後患者に対し開発されたSelf-efficacy for Rehabilitation Outcome Scale(以下:SER)を用いて計測した。交絡因子は属性因子である年齢・BMIと併存疾患と定義し、退院時点(術後5週)に従属変数である主観的健康感をSF-36-身体機能・全体的健康感・活力・心の健康を用いて計測した。データ分析は単相関分析によって関連を認めた変数により重回帰分析を実施し、ステップワイズ法により分析した。また交絡因子をモデルに強制投入し調整を実施した。抽出された因子に対して、ROC曲線分析によりカットオフ値を算出した後、感度、特異度、陽性尤度比、検査後確率を求めた。ROC曲線分析では、先行研究(n=60)で報告された術後早期の主観的健康の平均値を用いて、アウトカムの二値化を行った。【倫理的配慮、説明と同意】吉備国際大学(受理番号10-13)の倫理委員会の承認を得た。研究内容を書面で説明をし、同意書を得た。【結果】単相関分析によって主観的身体機能と関連を認めた術側・非術側股関節伸展筋力、SERにより重回帰分析を実施した結果、SERが有意に従属変数を説明した。交絡因子投入後もSERはモデルから除外されず、SER(p=0.002、β=0.574)とBMI(p=0.030、β=-0.351)が有意に従属変数を説明した。つまり転院時点にSERが低く、BMIが高い者は退院時点に主観的身体機能が低い特徴を有していた。抽出された因子の診断特性はSERがカットオフ値72.5点・感度60%・特異度85%・陽性尤度比4.0、BMIはカットオフ値24.1・感度70%・特異度70%・陽性尤度比2.3であった。事前確率を33%とした場合、検査後確率はSERが66%、BMIは53%であった。全体的健康感、活力、心の健康を予測する因子は認められなかった。【考察】SERは運動療法実施への自信を示した指標で、これが低い者はリハビリへの取り組みが消極的になると考えられ、階段昇降や歩行能力の指標である主観的身体機能が低い結果となったと推察された。またBMIが高い者は階段昇降や歩行が困難となるため、退院時の主観的身体機能に影響したと推察された。検査後確率についてはSERやBMIを検査に用いることにより、事前確率33%から53~66%に上昇することが示唆された。つまり転院時点にSERが72.5点未満、またはBMIが24.1以上のものは、53~66%の確率で退院時点に主観的身体機能が平均値より低いことが示唆された。限界として本研究は抽出された因子の予測能が十分に高いとは言えないこと、およびその妥当性については、RCTを実施によって検討する必要があることである。【理学療法学研究としての意義】本研究で得られた知見は、退院時に主観的身体機能が望ましいレベルに達しない症例を早期に把握し、入院期間の遅延を予防していくための、介入法を考える上での一助になると考える。