抄録
【はじめに,目的】近年,包括医療の導入により入院期間の短縮,早期退院が求められている.その中で下肢術後患者は一定期間の免荷期間があり,早期退院を可能とするためには松葉杖免荷歩行の獲得が必要となる.一方,松葉杖免荷歩行は不安定な動作であり,入院中歩行自立に至らない患者も多い.松葉杖免荷歩行については,先行研究において歩行自立の可否で年齢,性別,運動機能などの因子に有意差があるとの報告がある.しかし,多変量解析にて松葉杖免荷歩行の予測関連因子を検討した研究は見当たらず,どの因子がより歩行自立に関連しているかは不明である.よって,早期より松葉杖免荷歩行の可否を判別できればリハビリテーションプログラムの立案やその後の方針にも重要な情報となる.本研究の目的は術後翌日の評価から松葉杖免荷歩行自立の可否を予測することが可能か検討することである.【方法】対象は2010年12月から2012年10月までに当院で下肢手術を行い,医師より松葉杖免荷歩行の指示があった120名中41名(男性23名,女性18名,平均年齢52.7±18.6歳)である.除外基準は,術後翌日に歩行が自立した者,合併症(上肢骨折,深部静脈血栓症)や精神疾患,認知症を有する者,長期臥床,創外固定,下肢下垂困難である.カルテより年齢,性別,身長,体重,Body Mass Index,入院期間を調査した.術後翌日に身体機能として,下肢は非術側の等尺性膝伸展筋力体重比(膝伸展筋力体重比)及び非術側の片脚立位時間,非術側の手支持なしでの40cm台からの立ち上がり(立ち上がり)の可否を測定した.上肢は両側の握力体重比を測定し,その平均値を採用した. 1週間以内に歩行自立した者を自立群,自立できなかった者を非自立群とし,各項目について2群間の差を検討した.松葉杖免荷歩行自立の判定は連続100m以上の安全な歩行が可能な場合に自立とした.統計は単変量分析としてt検定,Mann-WhitneyのU-test,χ²検定を施行した.さらに有意差を認めた因子に対して,松葉杖免荷歩行自立の可否を目的変数としたロジスティック回帰分析を実施し,松葉杖免荷歩行の予測関連因子を抽出した.次にロジスティック回帰分析で有意差を認めた因子に対してReceiver Operating Characteristic(ROC)曲線によりカットオフ値を算出した.統計ソフトはSPSS 12.0Jを用い,統計的有意水準は5%未満とした.【倫理的配慮,説明と同意】本報告は川崎市立多摩病院倫理委員会の承認を受け(受付番号 第 多128号),対象者には十分な説明を行い,書面による同意を得て実施した.【結果】自立群が16名,非自立群が25名であった.非自立群は自立群に比して高齢(58.4±19.2歳 vs 43.8±13.8歳,p=0.012)であり,女性の割合( 60.0% vs 18.8%,p=0.009)が高い値を示した.さらに膝伸展筋力体重比(44.2±9.7% vs 55.5 ±13.4%,p=0.003)や握力体重比(36.1±9.8% vs 52.9±9.6%,p<0.001)などの筋力および片脚立位時間(24.5±10.4sec vs 30.0±0.0sec,p=0.039)は低値を示し,立ち上がり(28.0% vs 81.3%,p<0.001)を行える割合が低かった.それ以外の因子は有意差が認められなかった.入院期間は,非自立群が自立群に比して有意に長期間であった(39.9±22.0日 vs 22.9±7.0日,p=0.006).次に単変量分析において有意差を認めた年齢,性別,膝伸展筋力体重比,握力体重比,片脚立位時間,立ち上がりの可否を独立変数としたロジスティック回帰分析を行った.その結果,立ち上がりの可否(オッズ比21.4,95%信頼区間 1.98-232.21),握力体重比(オッズ比1.2,95%信頼区間1.07-1.40)が松葉杖免荷歩行自立と有意に関連していた.ROC曲線より得られた握力体重比のカットオフ値は37.6%(感度100%,特異度64%)であった.立ち上がりが可能で握力体重比がカットオフ値を超えた場合,86.7%が自立に至っていた.【考察】本研究においても先行研究と同様に松葉杖免荷歩行自立の可否で年齢や性別,身体機能に有意差を認めた.多変量解析により松葉杖免荷歩行自立の可否と術後翌日の運動機能の関連性が明らかになった.立ち上がりが可能であり,握力体重比が37.6%を超えていれば,松葉杖免荷歩行は概ね自立できると考えられた.松葉杖免荷歩行自立が困難な症例は,入院期間が長期化するため,リハビリテーションプログラムの検討や今後の方針を決定するため医師や看護師,家族への情報提供を行う必要があると考えられた.しかし,本報告では除外基準により対象から多くの患者が除外されてしまい,結果的に母集団の約1/3の検討となっている. よって,今後はこれら除外患者を含めた更なる検討が必要と思われる.【理学療法学研究としての意義】下肢術後翌日の評価から早期松葉杖免荷歩行自立の可否を予測できる可能性が示唆された.早期に歩行が困難で入院期間が長期化する可能性がある患者を判別する事で術後早期から対応策を検討する事が出来ると思われる.