理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: A-O-11
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一般口述発表
伸張刺激による筋損傷からの機能的及び組織学的回復促進効果
森 友洋柴田 篤志縣 信秀伊東 佑太宮本 靖義宮津 真寿美河上 敬介
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抄録
【はじめに,目的】骨格筋は,外傷や高強度の運動によって損傷される.筋損傷を持つ患者の早期ADL獲得や,スポーツ復帰のために,理学療法は重要である.一般に,筋損傷からの回復過程は,まず好中球やマクロファージにより損傷組織の貪食が起こり,その後,筋衛星細胞が活性化して,増殖,分化し,互いに融合して多核の筋管細胞が形成される.そして,筋管細胞が太くなり,成熟した筋線維になるといわれている.一方,骨格筋に対する伸張刺激は,筋衛星細胞の活性化の促進や,筋線維を太くすると報告されている.よって,本研究の目的は,伸張刺激が筋損傷からの回復を促進するかどうかを明らかにすることである.【方法】対象は8 週齢Wistar系雄性ラット20 匹とした.筋損傷モデルは,小動物用足関節運動装置を用いて,前脛骨筋の遠心性収縮により作製した.まず,ラットの下腿前外側面に表面電極を貼り付け,電気刺激により前脛骨筋に最大収縮を起こさせた.同時に,ラットの足関節を,角速度200 deg/sec,運動範囲90°(背屈30°から底屈60°),収縮回数10 回5 セットの条件で,底屈させた.この条件で遠心性収縮を行うと,遠心性収縮48 時間後のラット足関節背屈トルクは9.9 ± 2.3 mN・m,筋腹全体における損傷面積は平均で9.5 ± 3.0 mm2,変動係数0.31 の精度を持つ筋損傷モデルが作製できることを確認した.そして,遠心性収縮1 日後に前脛骨筋に対して,15 分間の伸張刺激を1 回のみ加えた(伸張刺激群).伸張刺激は,足関節に3 mN・mのトルクが加わるように底屈させ,その状態を5 秒間保持し,その後トルクが加わらない状態を5 秒間保持して,これを繰り返し15 分間行った.また,対照群として,遠心性収縮のみで,伸張刺激を加えていないControl群,遠心性収縮も伸張刺激も加えていないSham群を作製した.すべての群に対して,機能的評価と組織学的評価を行った.機能的評価は,遠心性収縮の前,2,7,14,18,21 日後に最大等尺性足関節背屈トルクを測定した.そして,遠心性収縮前の背屈トルクを 100%とした時の割合を算出した.組織学的評価は,遠心性収縮21日後に筋を採取して,凍結横断切片を作製し,Dystrophin の蛍光免疫染色を行い,筋腹横断面のうち,浅層部,中間部,深層部から,それぞれ一辺が 0.5 mm の正方形の範囲を抽出して,その範囲に含まれるすべての筋線維の横断面積を測定した.統計処理は,一元配置分散分析を行った後,有意差を認めた場合には,多重比較検定Tukeyの方法を用いた.なお,いずれの統計手法も有意水準は 5 % 未満とした.【倫理的配慮,説明と同意】すべての実験は,所属施設の動物実験委員会の承認を得てから行った.【結果】遠心性収縮2 日後において,伸張刺激群,Control群の最大等尺性足関節背屈トルクは, Sham群の22.7%であった. 遠心性収縮7 日後では,伸張刺激群はControl群に比べ有意に大きく(Control群:40.7 ± 6.1%,伸張刺激群:51.4 ± 3.4%),それ以降21 日後まで伸張刺激群が有意に大きいまま,両群とも徐々に増加した.そして,18,21 日後では,伸張刺激群とSham群とに有意な違いはなかった(Sham群:120.3 ± 7.7%,伸張刺激群:109.1 ± 6.6%).伸張刺激群の遠心性収縮21日後の筋線維横断面積は,Control群に比べ有意に大きかった(Control群:2438.4 ± 356.0 μm2,伸張刺激群:3103.7 ± 430.4 μm2).一方,伸張刺激群とSham群との間に有意な違いはなかった(Sham群:3016.4 ± 271.7 μm2).また,Control 群はSham群に比べ有意に小さかった.【考察】本研究より,遠心性収縮1 日後に1 回のみ行う15 分間の伸張刺激が損傷からの回復を促進させることが判明した.筋衛星細胞の活性化は,損傷1 日後から始まるという報告がある.よって,遠心性収縮1 日後に行った伸張刺激は,筋衛星細胞の活性化を促進し,その結果,回復を促進したと考える.一方,マクロファージから分泌されるサイトカインは,筋損傷からの回復を促すと言われている.損傷1 日後の筋組織内では,まだマクロファージによる貪食が行われていることから,伸張刺激がマクロファージからのサイトカイン分泌を促進し,その結果,損傷からの回復を促進させたと考える.今後は,伸張刺激による筋衛星細胞の活性化やサイトカインの分泌を促進するメカニズムについて明らかにする.【理学療法学研究としての意義】本研究では,一般的な筋損傷に対する処置である,RICEとは異なる結果であった.今後,最適な刺激時間や時期などを明らかにしていくことで,筋損傷からの回復を促進する新しい積極的な理学療法の開発へと萌芽する.
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© 2013 日本理学療法士協会
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