理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: C-S-05
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セレクション口述発表
地域少年野球における投能力と体格,体力,運動能力の関連について
長谷川 恭一木勢 千代子山形 沙穂森田 真純中村 睦美
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キーワード: 少年野球, 投能力, 柔軟性
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抄録

【目的】近年,小学生において新体力テスト項目の1つであるソフトボール投げの全国平均値は,低下する傾向にある。ソフトボール投げは,「投」の運動能力を測る指標であるが,低下の原因として児童達のスポーツや外遊びの中で「投」にかかわる類似の運動を経験する機会が減少したことがあげられる。また「投げる」動作は「歩く」,「走る」といった動作に比べ,後天的に獲得される動作で練習や効果的な指導が必要であるとされている。投能力に関する先行研究では,高校生や大学生などにおける研究は多いが,地域少年野球に関する研究は少ない。そこで本研究では,地域少年野球チームに所属する児童の軟式球投げを調査し,体格,体力,運動能力との関係を検討することを目的とした。【方法】対象者は,地域少年野球チームに所属する小学5年生10名を対象とした。測定項目は身長,体重,握力,長距離走(2.5km),50m走,片脚立位(60秒を上限とした),立位体前屈,膝伸展筋力,軟式球投げとした。体力テストの方法は文部科学省の「新体力テスト実施要項」に準じて行い,立位体前屈は立位にて前屈を行い第三指の指尖がついた位置を測定面より計測し測定面を0cmとし,足底より下を+(プラス)値,足底より上を-(マイナス)値とした。膝伸展筋力はμ-tas(アニマ社製)を用い椅子座位にて体重支持側下肢にて2回行った値の最大値を採用し体重比(%)を算出した。また,軟式球投げに用いたボールは (公財)全日本軟式野球連盟公認球であるケンコーボールC号を使用した。統計解析には,軟式球投げと各測定間の関係を検討するためにPearsonの相関係数を用いた。また40m以上投げられる群(高能力群)と投げられない群(低能力群)の2群に分け,各測定値を対応のないt検定で行った。なお,統計解析ソフトはSPSS19.0J for Windowsを用いて行い,有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】すべての児童に対して研究の趣旨,内容,それに伴う危険性について事前に口頭で説明し,保護者に対しては書面にて十分な説明を行い,署名を以って同意を得た。【結果】各測定値は,身長141.8±5.1cm,体重39.7±9.1kg,握力19.5±2.9kg,長距離走17.3±3.2分,50m走10.1±1.2秒,片側立位60.0±0.0秒,立位体前屈-2.4±8.6cm,膝伸展筋力(体重比)1.6±0.5%,軟式球投げ41.6±6.8m,であった。軟式球投げと各測定間の相関の結果は,全ての測定値の間で有意な相関は認められなかった。また,高能力群は6名で低能力群は4名であり2群間の比較では立位体前屈でのみ有意差が認められ高能力群は1.6±6.2cm,低能力群は-8.5±4.7cmであった。【考察】本研究の結果,地域少年野球チームに所属する児童において,軟式球投げと体格,体力,運動能力との間に相関関係は認められなかった。小学生におけるソフトボール投げに関する先行研究では,50m走とソフトボール投げが正の相関を認めたという報告がある。今回は投能力と各指標間に相関を認めなかったが,今後は,他学年の児童も研究対象に加え対象者を増やし再検討が必要である。しかし,投能力の高い群と低い群の2群に分け検討した結果,立位体前屈において有意差が認められ,柔軟性が高い児童ほど投能力に優れていた。投球動作は下肢から体幹,上肢へと効率よくエネルギー伝達する全身運動であり,その動作の中心となるのが体幹であるといわれている。優れた投球動作を行うためには身体の大きさ,筋量だけでなく,下肢,体幹で発生した力を上肢に伝達するための体幹の動きや,投球の際におけるスムーズな回旋を行うための関節可動域も重要であることが報告されている。立位体前屈によって測定される柔軟性は,体幹背部から腰部,大腿および下腿後部の筋や腱の伸長性,脊柱から股関節,膝関節,足関節に至るまでの関節や靱帯の構造など多くの身体的要素が複雑に影響している。また,成長期に頻発する障害は成長期特有の力学的ストレスが作用して発症するものであり,その予防においては柔軟性を高め,筋・腱付着部の伸張ストレスを軽減させることが重要である。本研究より,投能力の高い児童ほど柔軟性が高いことが示され,成長期の児童に対して投能力を高めるためには,体格を考慮した正しいストレッチの指導を行い,投動作を練習する事が重要であると考えられる。今後は,他学年の児童も研究対象に加え対象者を増やして調査を継続していきたい。また,投動作において動作分析を行い,他部位の筋の柔軟性や関節可動域を調査し投能力向上と障害予防に努めていきたい。【理学療法学研究としての意義】本研究より成長期児童において投能力が高いほど柔軟性が高いことが示され,柔軟性を高める事は投能力向上や投球障害予防につながると考えられる。

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© 2013 日本理学療法士協会
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