抄録
【はじめに、目的】脳性麻痺児の筋力は粗大運動能力と相関し、筋力トレーニングによる筋力増強効果が報告されている。しかし筋力トレーニングによる歩行速度やGross motor function measure(GMFM)の改善については一定の結果が得られていない。このことは運動機能の改善を目的とした筋力トレーニングの方法が確立していないことが一因となっている可能性がある。脳性麻痺児の筋力トレーニングの方法として様々な方法が用いられているが、トレーニングの仕方によってどのような変化が起こるかを検討した報告は少ない。また、口頭指示が通らない脳性麻痺児でも行うことができるトレーニングについて検討した報告も少ない。そこで本研究では、そのような児でも動作を誘導できるという点から介助下での起立動作に着目し、様々な条件下で表面筋電図を用いて筋活動の変化を測定することで、脳性麻痺児における筋力トレーニング方法としての起立動作について検討した。【方法】対象は特別支援学校に通学する脳性麻痺児7名とした(年齢13.6±3.4歳、男児3名 女児4名、身長136.0±23.9cm、体重29.8±14.6kg、GMFCSレベル1:1名 2:5名 3:1名)。まず歩行動作として10mの快適歩行を行った。その際、必要に応じて歩行器を使用した。次に起立動作として、股関節屈曲90°、膝関節屈曲105°を基本姿勢として、高さの条件( 基本姿勢、椅子高+10cm、椅子高-10cm)と、膝関節角度条件(基本姿勢、膝関節屈曲95°、膝関節屈曲85°)を変化させた場合の筋活動の変化を見た。測定順序はランダムと、1条件ごとに2回ずつ測定を行った。また、起立動作は、最小限の介助を加えて行った。表面筋電図(Delsys社製)を用いて、前脛骨筋、腓腹筋、ヒラメ筋、腓骨筋、大腿直筋、内側広筋、大腿二頭筋、半腱様筋、中殿筋、長内転筋の筋活動を計測した。起立動作は開始の合図に応じて行わせ、動作の開始・臀部離床・起立動作の終了は加速度計とビデオをもとに判定した。2回のうち、より安定した試行において、起立動作全体における筋活動のピーク値を求めた。筋活動量の参考値として通常歩行速度の歩行(3周期)における上記10筋のピーク値を求めた。解析項目として、歩行時と基本姿勢における起立動作のピーク値の違いをWilcoxonの符号付順位検定を用いて比較を行った。次に高さの3条件と膝関節角度の3条件で生じる筋活動の変化をそれぞれFriedmanの検定により比較し、有意水準は5%として検討した。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は京都大学医学部倫理委員会の承認を得て、本人とその家族の同意を得た上で測定を行った。【結果】歩行と基本姿勢における起立動作のピーク値を比較すると、大腿直筋・内側広筋・大腿二頭筋・半腱様筋の4筋が起立動作で有意に増加していた(p<0.05)。膝関節角度条件では10筋すべてで有意差が認められなかった。高さの条件では、大腿直筋・長内転筋において有意差が認められ、椅子の高さが低くなるほど高値を示した (p<0.05)。【考察】本研究の結果から、脳性麻痺児において起立動作では、歩行時と比較して膝関節周囲の筋のみ高い筋活動を示していた。したがって動作トレーニングとして歩行や起立動作を比較すると、膝関節周囲筋を強く使わせようとした場合、起立動作の方がより適切である可能性がある。また、椅子高の条件下では大腿直筋・長内転筋でのみ有意差が認められた。大腿直筋については椅子高が低くなったことで、膝関節の伸展筋に強い筋活動が必要になったためであると考えられる。膝関節角度の条件下では、10筋すべてにおいて有意差が認められなかった。健常者において、前脛骨筋は、より膝を伸展させた肢位からの起立動作において筋活動が増加すると報告されている。しかし、今回は対象児が口頭での指示による起立動作ができないために起立動作開始時に上肢を引く最小限の誘導・介助を行う必要があった。この影響で前脛骨筋の筋活動に大きな変化が生じず、有意差が認められなかったと考えられる。この結果から、介助下であっても立ち上がり動作を行うことによって、歩行より高い筋活動が得られ、特に椅子高を低くすることで大腿直筋の筋活動を高めることができることが示された。得られた筋活動が筋力増強に十分な大きさであるかは、今後検討が必要である。【理学療法学研究としての意義】脳性麻痺児において、介助下・または口頭支持が通らない児でもトレーニング条件の設定によって筋活動を高められることが示された。このことは脳性麻痺児における筋力トレーニングを検討するうえで臨床的に有用であると考えられる。