抄録
【はじめに】 脳性麻痺児の座位能力は、日常生活活動(以下ADL)に関連する重要な機能である。特に立位、歩行が困難な児では、座位姿勢で過ごすことが日常生活の大部分を占めるため、この姿勢の評価は理学療法を行う上で重要な項目となる。また、日常生活場面では、静止した座位姿勢より、上肢を用いた様々な活動を行う動的な座位姿勢が求められるが、このような姿勢における安定性と日常生活機能の関連を調べた報告は少ない。本研究の目的は、座位能力と日常生活機能の関連を、静的もしくは動的な座位姿勢の安定性に着目して検討することである。 【方法】 対象は特別支援学校に通学する肢体不自由児12名とした(男児7名、女児5名、平均年齢13.3±4.0歳(6~17歳)、GMFCSレベル1:1名、2:2名、4:7名、5:2名、脳性麻痺7名、遺伝子異常5名)。座位の安定性を評価する目的で、Medicapteurs社製Win Podを設置した台上で端座位をとらせた。そのままの状態で静止座位を保持する課題1と、課題1の位置から前方へリーチングを行い、姿勢制御可能な最大の位置での座位を保持する課題2を行った。課題1、2ともに5秒間の測定を行い、このうち最も安定している2秒間の重心動揺軌跡長(以下LNG/min)の平均値を、姿勢不安定性を示す指標として用いた。さらにLNG/minを、前後方向成分と左右方向成分に分けて検討した。台は、児の足底が床面に接地しない高さに調整した。また、座位保持に介助が必要と考えられる児には、最小限の介助(肩あるいは手掌面の支持)を行った。課題2を行う際に、重心がWin Pod上から外れないように調整した。また、日常生活機能は、Pediatric Evaluation of Disability Inventory(以下PEDI)のセルフケア項目と移動項目の尺度化スコアとした。統計解析は、Wilcoxonの符号付順位検定を用いて、課題1、2のLNG/minを比較した。また、Spearmanの順位相関係数を用いて、課題1、2のLNG/minとPEDIの関連を調べた。有意水準は5%未満とした。 【説明と同意】 本研究は京都大学医学部倫理委員会の承認を得て、本人とその家族の同意を得た上で測定を行った。 【結果】 静止座位である課題1に比べ前方リーチを行った課題2では、LNG/minが有意に大きく(p<0.05)、特に前後方向成分が有意に高くなった(p<0.05)。一方、左右方向成分では有意な差は認められなかった。また課題1では、移動項目、セルフケア項目ともにLNG/minと有意な関連は認められなかった。これに対して課題2では、セルフケア項目とLNG/min、特にその前後方向成分で有意な負の相関が認められたが(LNG/min r=0.64、前後方向成分r=-0.60、p<0.05)、移動項目とLNG/minでは有意な関連は認められなかった。 【考察】 本研究では、前方リーチ時に重心が前方移動し、静止座位に比べ、主に前後方向の動揺が増加することが示唆された。さらに、課題2のLNG/minとPEDIのセルフケア項目の関連は、左右方向では認められず、主に前後方向でのみ認められた。したがって、前方リーチ時に生じる前後方向の動揺の増加が小さい児では、ADLでもその能力を発揮することができるため、セルフケア項目のスコアが高くなったと考えられる。重心が前方へ移動する課題では、前後方向への動揺を制御できる能力が、ADLの向上に関連すると考えられる。一方、課題1のLNG/minとPEDIのセルフケア項目、移動項目や、課題2のLNG/minとPEDIの移動項目の関連は認められなかった。この理由として、一つはADLには静止した座位姿勢よりも、動的な座位姿勢がより関連していること、また、測定は座位で行ったため「移動」との関連が小さく、PEDIの移動項目では関連が認められなかったことが考えられる。また、本研究ではリーチ方向を前方に設定したが、リーチ方向を側方に設定した場合には、LNG/minの左右方向とPEDIとの関連が認められる可能性がある。今後、リーチ方向と座位姿勢の安定性の関連についてのより詳細な検討が必要であると考えられる。【理学療法学研究としての意義】 肢体不自由児において、発生した座位姿勢の動揺の方向に対して、その動揺を制御する能力と日常生活機能が関連している可能性が示唆された。今回の結果は、理学療法士として肢体不自由児の日常生活機能を向上させるために、座位能力に着目したアプローチを検討する上で基礎的資料となると考えられる。