理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: A-P-38
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ポスター発表
脳梗塞発症前の運動による脳梗塞障害軽減効果及びその作用機序の検討〜酸化ストレスに着目して〜
野口 泰司濱川 みちる玉越 敬悟戸田 拓弥豊國 伸哉石田 和人
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抄録

【はじめに、目的】脳梗塞発症時には活性酸素やフリーラジカルが大量に産生され、その酸化ストレスは組織障害を拡大させ脳梗塞を増悪させる因子である。一方で、健常なラットに長期間運動させると、脳内で抗酸化物質が増加し酸化ストレスの減少がもたらされることが報告されており、運動は脳内の抗酸化作用を高めることが示されている。また、先行研究では脳梗塞モデルラット作成前に一定期間の運動を行うと、運動していないラットに比べて、脳梗塞後の梗塞体積が減少し運動機能障害も軽減するといった脳梗塞障害軽減効果が報告されている。しかし、この運動により高まる脳内の抗酸化作用が、脳梗塞時の酸化ストレスに影響を及ぼしているかどうかは不明である。そこで本研究では、脳梗塞発症前の運動による脳梗塞障害軽減効果およびその作用機序を、脳内の抗酸化作用に着目して検討することを目的とする。【方法】実験動物にはWistar系雄性ラット(5 週齢)を用いた。無作為に(1)Sham群、(2)運動+sham群、(3)脳梗塞群、(4)運動+脳梗塞群に分け、脳梗塞+運動群と運動+sham群は3 週間のトレッドミル運動(15 m/min,30 分/日)を毎日行った。脳梗塞群とSham群は走行させずにトレッドミル装置内に暴露させた(1 日30 分間)。3 週間後、運動+脳梗塞群と脳梗塞群に対し、小泉法による脳梗塞モデル作成手術を施行した。手術24 時間後に、運動-感覚機能評価として、麻痺の重症度を評価するneurological deficits(ND)、歩行時のバランス能力の評価としてbeam walking(BW)、はしごの上の歩行における前肢の協調運動機能の評価としてladder test、前肢の感覚運動機能の評価としてlimb placing(LP)を行った。その直後に脳を採取し、TTC染色により非梗塞半球体積に対する梗塞体積の割合を算出した。また、酸化ストレス関連指標として、脂質過酸化の指標である4-hydroxy-2-nonenal(4-HNE)とDNAの酸化的損傷の指標となる8-Hydroxydeoxyguanosine(8-OHdG)、抗酸化酵素であるthioredoxin(TRX)の免疫組織化学染色を行い、陽性細胞数及び光学濃度を計測した。またSOD Assay kit-WST(同仁化学研究所)を用いて抗酸化酵素であるsuperoxide dismutase(SOD)活性を計測した。【倫理的配慮、説明と同意】本研究における全処置は名古屋大学動物実験指針に従って実施した。【結果】運動+脳梗塞群は脳梗塞群に比べて、NDとladder testのスコアが低値となり有意に障害が軽度であった。LPとBWは群間に有意差は認められなかった。また、梗塞体積割合は運動+脳梗塞群の方が脳梗塞群よりも有意に小さかった。4-HNE 及び8-OHdG陽性細胞数は、運動+脳梗塞群の方が脳梗塞群に比べ有意に少なかった。一方、TRXの光学濃度は群間に有意な差は認められなかったが、SOD活性は運動+脳梗塞群が脳梗塞群に比べ高値を示す傾向にあった。【考察】脳梗塞モデル作成前に3 週間のトレッドミル運動を継続することで、脳梗塞後の麻痺の重症度および前肢の協調運動機能障害が軽減すること、梗塞体積が縮小すること、また脳梗塞時の脂質やDNAに対する酸化ストレスを抑制することが示された。さらに抗酸化酵素であるSOD活性が高められることが示された。これらの結果より、脳梗塞前の運動による脳梗塞の障害軽減効果には酸化ストレスの抑制とSODの活性化が関与していることが示唆された。【理学療法学研究としての意義】脳梗塞発症前の運動による脳梗塞障害軽減効果を行動学的、組織化学的に示した。加えて、運動による酸化ストレスの抑制と抗酸化作用の増加の関連も示され、その作用機序の一端を明らかにした。これらの結果は、脳梗塞の予防として推奨されている運動の効果を科学的に検討し、予防医療分野における理学療法のさらなる発展に寄与するものと考える。

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© 2013 日本理学療法士協会
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