理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: A-P-38
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ポスター発表
ラット腓腹および前脛骨動脈におけるアドレナリン受容体による収縮調節機構の相違
柴山 靖大塚 亮小出 益徳梶栗 潤子伊藤 猛雄
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抄録

【はじめに、目的】骨格筋は姿勢保持などに主要な役割を果たす赤筋と運動時にその主要な役割を果たす白筋よりなる。これらの骨格筋のエネルギー代謝は、それぞれの代謝バランスを考慮した生体の調節機構が必要であると考えられているが、その詳細は不明である。細動脈のトーヌスは、シェアーストレスなどによる血管内皮細胞の興奮や自律神経の活動状態によって調節されている。我々は、第47 回学術大会にて、ラット腓腹および前脛骨動脈での血管内皮細胞の興奮を介した内皮依存性弛緩反応の性質の相違について報告した。自律神経は骨格筋供給動脈に密に分布しており、その興奮により骨格筋血流分配を調節していると考えられる。しかし、赤筋と白筋の供給動脈におけるアドレナリン受容体による収縮調節機構の差異に関する報告はほとんどない。我々は、内皮細胞を除去したラット腓腹および前脛骨動脈を用いて、これらの点について検討し、以下の知見を得た。【方法】9 週齢のWister系雄性ラットを使用した。研究に使用する動脈は、ヒラメ筋(赤筋)に血流を供給する腓腹動脈と長趾伸筋(白筋)に供給する前脛骨動脈とした。実態顕微鏡下にて、腓腹動脈と前脛骨動脈を採取した。摘出血管を縦切開後、血管内皮を注意深く丁寧に除去した後、輪状切片標本を作成し、チャンバー内の張力歪計にセットした。溶液は灌流にて投与した。実験のスタート1 時間前から、標本の交感神経機能を除去するためグアネチジン(5 μM)を、プロスタグランジン生成を抑制するためジクロフェナック(3 μM)を投与した。その後、各々の標本における最大収縮反応を得るために、高カリウム溶液(128mM)による収縮を得た。次に、β1 アドレナリン受容体(以下β1 受容体)拮抗薬ビソプロロール(300nM)存在下でのノルアドレナリン(以下NAd)収縮に対する、α1 アドレナリン受容体(以下α1 受容体)拮抗薬プラゾシン(1-10nM)とα2 アドレナリン受容体(以下α2 受容体)拮抗薬ヨヒンビン(30-300nM)の効果を検討した。最後に、NAd-収縮に対する、ビソプロロール(300nM)とβ2 アドレナリン受容体(以下β2 受容体)拮抗薬ICI-118551(300nM)の効果を検討した。【倫理的配慮、説明と同意】本実験は名古屋市立大学動物実験倫理委員会の規定に従って行った。【結果】NAdは、腓腹動脈と前脛骨動脈の両動脈をほぼ同程度に収縮させた。プラゾシン(1-10nM)はその収縮を両血管で濃度依存性に同程度抑制した。両血管においてヨヒンビンは30nMでNAd収縮に影響を与えなかったが、100nM以上では濃度依存性にNAd-収縮を抑制した。ICI-118551 は、両血管におけるNAd-収縮に影響を与えなかった。一方、ビソプロロールは腓腹動脈でのNAd-収縮を増強したが、前脛骨動脈でのNAd-収縮に影響を与えなかった。【考察】日常生活で活動量が比較的低い時は姿勢保持などに関与する骨格筋の血流量が増加しており(赤筋優位)、一方、活動量が増加した時の骨格筋血流量は赤筋・白筋共に増加するものの赤筋<白筋となる(Williams and Segal,1993)。このことより、骨格筋の血流再分配は生体のエネルギー代謝調節と密接に関連し制御されているものと考えられる。しかし、その詳細な機序は不明である。我々は、前回、赤筋と白筋の血流再分配に内皮由来弛緩因子の差異が関与している可能性について報告した。今回は、赤筋と白筋の供給動脈におけるアドレナリン受容体による収縮調節機構の差異に関して検討した。これまで、骨格筋血管で、NAdは主にα1 受容体の興奮により血管を収縮させ、一方、アドレナリンはα1 受容体の興奮による収縮とβ2 受容体興奮による弛緩のバランスによりそのトーヌスを調節していると考えられてきた。今回、我々は、ラット腓腹動脈と前脛骨動脈の両血管で、NAdは、(i)α1 受容体活性化によって収縮を発生させる、(ii) β2 受容体の機能は関与しない、(iii)β1 受容体活性化により血管を弛緩させ、その機能は腓腹動脈>前脛骨動脈であることを明らかとした。これらの結果は、運動時など交感神経の興奮時、血管収縮は前脛骨動脈(白筋の供給動脈)>腓腹動脈(赤筋の供給動脈)となり血流が再分配されている可能性が明らかとなった。【理学療法学研究としての意義】理学療法学的治療効果の向上を考えていく上で、骨格筋のエネルギー代謝を調節する血流再分配機構の解明は必須であり、本研究成果はその基礎的な知見を提供するものと考えられる。

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© 2013 日本理学療法士協会
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