理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: A-P-30
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ポスター発表
健常者における咀嚼筋活動量の違いが注意機能に及ぼす影響
山崎 達彦山下 淳一石野 麻衣子永樂 由香里千葉 淳弘吉村 さつき久保 慶昌原 美咲磯 毅彦
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抄録

【はじめに、目的】我々は,「第16 回静岡県理学療法士学会」において,咀嚼対象物のある咀嚼運動は注意機能に影響を与える可能性を示唆し,咀嚼対象物の有無による咀嚼筋活動がその要因であることが予測された.そこで今回,その検証として健常者の咀嚼筋活動量に着目し,咀嚼対象物の有無による筋活動量の違いがあるのか.また,咀嚼筋活動量が注意機能に影響を及ぼすのかについて,表面筋電図とTrail Making Test Part A(以下TMT-A)及びPart B(以下TMT-B)にて調査,検討したので報告する.【方法】対象は,直近の食事から2 時間以上経過した健常者28 名(男性15 名,女性13 名:年齢25.3 ± 5.8 歳).対象者は,コントロール群(以下A群),任意の力での咬合運動群(以下B群),最大の力での咬合運動群(以下C群),ガム咀嚼群(以下D群)に7 名ずつ第三者がランダムに振り分けた.課題内容として先行研究を参考に,A群は6 分30 秒間安静座位.B群,C群は90 秒間口に何も含まず咬合運動後,5 分間安静座位.D群はジーシー社製の無味無臭ガムを1 つ使用し,90 秒間咀嚼運動後,5 分間安静座位とした.表面筋電図は日本光電社製MEB-2200 を使用し,B群,C群,D群の課題時に測定した.測定筋は,左右側の側頭筋前部(以下Ta),咬筋(以下Mm)の計4 筋とした.導出部位は坂本らの方法を参照し,測定前に皮膚前処理を十分に行った.運動速度は,電子メトロノームを使用し毎分120 回に設定した.正規化を目的に,左右側Ta,Mmの最大等尺性随意収縮(以下MVC)による咬合運動を課題前に3 秒間測定し,その中の3 ストロークを付属プログラムにて面積積分値を求めた.求めた値に対し,各課題の運動開始60 秒後から3 秒間測定し,その中の3 ストロークの面積積分値を求め,MVCに対する割合(以下%MVC)を比較した.TMT-A,TMT-Bは課題前後の2 回測定し,各群内における比較と4 群における課題前後の変化量の差を比較した.統計ソフトはRコマンダーを使用し,各群内における比較には正規性検定後,t検定またはWilcoxonを使用.各群の比較には一元配置分散分析と多重比較検定により比較した.有意水準は5%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】本研究は,当院倫理委員会の承諾(承諾番号2408)を得た.また,被験者に文書および口頭で研究内容を十分に説明し同意を得た.【結果】各筋の%MVCとして,右Mm では,B群23.27 ± 7.08%,C群65.84 ± 15.39%,D群50.60 ± 18.11%と,B群とD群,B 群とC群,C群とD群に有意差を認めた.左Mmでは,B群18.80 ± 10.09%,C群71.04 ± 15.83%と,B群とC群に有意差を認めた.右Taでは,B群26.99 ± 5.22%,C群71.64 ± 16.60%,D群44.19 ± 19.12%と,B群とC群,C群とD群に有意差を認めた.左Taでは,B群30.50 ± 9.47%,C群72.27 ± 16.05%,D群42.99 ± 23.91%と,B群とC群,C群とD群に有意差を認めた.注意機能の群内比較において,A群はTMT-A課題前25.27 ± 7.92 秒と課題後18.44 ± 4.10 秒に有意差を認めた.B群はTMT-B課題前43.83 ± 5.21 秒と課題後36.79 ± 4.74 秒に有意差を認めた.C群はTMT-A課題前23.62 ± 5.38 秒と課題後19.25 ± 4.89 秒,TMT-B課題前51.47 ± 11.37 秒と課題後39.86 ± 9.87 秒に有意差を認めた.D群は共に有意差を認めなかった.各群の課題前後における変化量の比較は,TMT-Aでは有意差を認めず,TMT-Bでは,A群-2.14 ± 7.84 秒,B群-7.04 ± 3.64 秒,C群-11.60 ± 5.62 秒,D群4.43 ± 6.90 秒と,A群とC群,B群とC群,C群とD群に有意差を認めた.【考察】咀嚼対象物の有無による咀嚼筋活動量の違いとして,B群とD群の比較において右Mmに有意差を認めた.窪田は咀嚼対象物により咀嚼システムが機能すると報告し,佐藤は,Taは咬みしめの強弱により機能を変化させ,Mmは咬みしめの強弱に関わらず咬合力を発揮することを報告している.本研究において,B群は咀嚼対象物が無い為MmがD群と比べ作用せず,D群ではガムの軟化に伴いTaは下顎保持に機能したこと.また,利き側の影響も考えられ右Mmのみ有意差が認められたと考える.咀嚼筋活動が注意機能に及ぼす影響として,TMTは前頭葉の注意機能評価の1 つといわれている.本研究では,特にC群に有意差を認め,D群では有意差を認めなかったことから,咀嚼対象物の有無よりも,咬合強度が前頭葉の注意機能に影響を及ぼすことが示唆された.馬場は,最大咀嚼運動は前頭葉に影響をきたすことを報告し,富田らは咀嚼機能を回復させると前頭葉機能が向上するとの報告から,同様の効果が得られたと考える.しかし,どの程度の咬合強度が必要なのかなど,今後も検討が必要であると考える.【理学療法学研究としての意義】臨床場面において,注意機能の重要性を感じる機会は多い.今回,咀嚼筋活動量が注意機能に影響を及ぼすことが示唆されたことから,咀嚼筋が注意機能に対するアプローチの1 つとなり得る可能性が示唆された.

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© 2013 日本理学療法士協会
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