理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: A-P-30
会議情報

ポスター発表
大腿義足歩行におけるソケット内圧変化と筋活動の関連性‐歩行速度での違い‐
高橋 温子山路 雄彦
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

【はじめに、目的】大腿義足歩行の膝継手制御には、アライメント制御、立脚相制御、随意制御があり、重要とされている。私たちは、大腿切断者の断端の体性感覚が健側に比べ鋭敏であることを示し、膝継手制御に断端の体性感覚情報が活用されていると考えた。特にソケット内圧変化を察知していると考え、通常歩行時のソケット内圧変化、筋活動と膝継手制御の関係について示した。日常生活ではさまざまな速度での歩行が求められる。そこで歩行速度を変化させたときのソケット内圧変化、筋活動を調べ、通常歩行との比較、膝継手制御との関係について検討した。【方法】対象は28 歳男性、片側大腿切断者1 名(切断から14 年経過、切断原因:骨肉腫、断端長11cm)。歩行時のソケット内圧変化、筋活動の計測は、対象者に適合させた計測用義足を作製し使用した。吸着式大腿義足ソケットに圧センサー(TEACひずみゲージTC-FSR 100N)を大腿前面(以下前面)、大腿後面(以下後面)の上部、下部の2 ヶ所ずつ計4 点に埋め込んだ。膝継手は荷重ブレーキ膝(LAPOC MO760)、足部はエネルギー蓄積型足部(LAPOC J-FOOT)を使用した。筋電計は電極を患側大殿筋、中殿筋に取り付け、赤外線反射マーカを肩峰、大転子、膝継手、足部(2 ヶ所)に取り付けた。筋電計(日本光電WEB-5000 600Hz)、三次元動作解析装置(アニマ社MA-6250 60Hz)を同期させ、通常歩行速度、遅い歩行速度、速い歩行速度で各5 回計測した。立脚相をinitial contact(以下 IC)〜foot flat(以下FF)、FF〜mid stance(以下MS)、MS〜heel off(以下HO)、HO〜push-off(以下PO)の4 相に分け、各相の単位時間あたりのソケット内圧(g)、筋活動(mV)を算出し、中央値を代表値とした。また、ICからPOまでの時間を患側の立脚時間とした。【倫理的配慮、説明と同意】群馬大学大学院医学系研究科の臨床研究倫理審査委員会で承認を得て実施した。また本研究の主旨を書面にて対象者に説明し、同意書に署名を行った上で実施した。【結果】ソケット内圧は、すべての歩行速度において後面・上部に圧がかかりやすく、後面・上部の圧は通常歩行速度でIC〜FF:131.78g/ms、FF〜MS:230.94g/ms、遅い歩行速度でIC〜FF:131.78g/ms、FF〜MS:175.85g/ms、速い歩行速度でIC〜FF:177.70g/ms、FF〜MS:313.57g/msであり、FF〜MSでピークとなり、その後MS〜POにかけて圧は減少していた。また他の部位においても同様な変化を示した。筋活動は、通常歩行速度では大殿筋IC〜FF :87.13mV/ms、FF〜MS:377.25mV/ms、MS〜HO:208.98mV/ms、HO〜PO: 127.25mV/msとFF〜MSにかけて増加し、ピークとなった。その後POにかけて活動が減少した。遅い歩行速度では、大殿筋IC〜FF:76.05mV/ms、FF〜MS:55.69mV/ms、MS〜HO:152.10mV/ms、HO〜PO:122.75mV/msとMS〜HOでピークとなり、HO〜POにかけて減少した。速い歩行速度では、大殿筋IC〜FF:64.37mV/ms、FF〜MS:96.41mV/ms、MS〜HO:114.07mV/ms、HO〜PO:316.47mV/msとFF 〜MS以降活動が増加し、HO〜POでピークとなった。中殿筋では歩行周期間で大きな差はみられなかった。患側立脚時間は、通常歩行速度0.73 ± 0.02 秒、遅い歩行速度0.87 ± 0.13 秒、速い歩行速度0.61 ± 0.02 秒であった。【考察】ソケット内圧は、すべての歩行速度においてIC〜FFより増加し、FF〜MSでピークとなった。またその後MS〜POにかけて減少する変化を示したが、立脚初期から立脚中期のソケット内圧は、速い歩行速度、通常歩行速度、遅い歩行速度の順で大きく、歩行速度に依存すると考えられる。通常歩行速度では、患側大殿筋の活動はソケット内圧変化と同様な変化を示した。立脚初期に股関節伸展モーメントが発生すること、さらに膝折れ制御のために随意制御を用いて断端をソケット後壁に押し付けていることから大腿後面の圧が高まったとともに、大殿筋の活動が増加したと考えられる。遅い歩行速度では、大殿筋の活動は立脚中期から後期にかけて増加していた。また立脚時間は通常歩行速度と比べ長く、歩行速度が遅い分アライメント制御、立脚相制御である荷重ブレーキが働きやすくなり、立脚初期から立脚中期の大殿筋の活動が減少したと考えられる。速い歩行速度では、立脚初期から立脚中期の大殿筋の活動は小さかったが、その後筋活動は増加しHO 〜POでピークとなった。立脚時間は通常歩行速度と比べ短く、そのため早期から骨盤が足部の上に位置しやすく、股関節伸展モーメントが小さくなり、立脚初期から立脚中期の大殿筋の活動が減少したのではないかと考えられる。【理学療法学研究としての意義】大腿義足歩行時では、歩行速度によって膝継手制御が異なると考えられた。ソケット内圧の評価が可能になれば、ソケットの形状の工夫やよりさまざまな歩行速度での快適な大腿義足歩行の獲得が図れるなど、理学療法の発展の一助になると考える。

著者関連情報
© 2013 日本理学療法士協会
前の記事 次の記事
feedback
Top