理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: C-O-16
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一般口述発表
物体の重量の違いによる重量保持動作時の体幹筋活動の変化
動作指導への活用
岡山 裕美大工谷 新一
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抄録

【はじめに、目的】 腰痛患者をはじめとした脊椎疾患の理学療法では,脊柱起立筋に負担をかけずに重量物を運搬する方法を指導する機会が多い.そこで本研究では,物体を保持する際の脊柱起立筋の活動動態を明らかにすることを目的として,物体を保持する動作における物体の重量,および物体を保持する際の身体との距離の違いによる体幹筋の筋活動の変化を検討した.【方法】 被験者は整形外科学的,神経学的に問題のない健常成人男性9名とした.被験者が楽だと感じる安静立位と重量保持の立位で表面筋電図の計測を行った.安静立位は上肢を身体の側方に位置させることとした.重量保持の立位は安静立位の状態から肘関節を屈曲させ,前腕が床面と平行であることを条件とした.この際,重量物は5kg,10kgのダンベルを使用し保持させた.ダンベルを持った立位姿勢でのダンベルと身体との距離は肩峰を通る垂線とダンベルの中心の最短距離とし,10cm,20cm,30cmの3条件を設けた.ダンベルの重量とダンベルと身体との距離の条件を組み合わせた6パターンを無作為に実施した.表面筋電図の計測はMyosystem1400(Noraxon社製)を用いて腹直筋(上部,下部),脊柱起立筋(胸部,腰部)の表面筋電図を記録した.電極配置位置に関しては,腹直筋上部および下部は臍部を境とし,上部と下部に分け,脊柱起立筋胸部はTh12レベルで腰部はL3レベルとした.これらの筋の表面筋電図を記録し,得られた信号をAD変換しパーソナルコンピュータに取り込んだ.サンプリング周波数は1kHz,解析の周波数は10~500Hzとした.課題の立位保持時間は10秒間とし,得られた波形より立位保持を開始してから2.5~7.5秒までの5秒間を解析し,筋電図積分値と中間周波数を算出した.筋電図積分値においては,ダンベルを持った立位での各筋の結果を同名筋の安静立位の結果で除し相対値を算出した. 統計学的検討には,ダンベルと身体との距離の違い毎にダンベルの重量の違いによる筋活動の比較を筋電図積分値の相対値と中間周波数を従属変数としてt検定を行った.なお,有意水準は5%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】 被験者には研究の趣旨を説明し同意を得た.【結果】 筋電図積分値の相対値は,腹直筋上部・下部では5kg,10kgともに安静立位を1.0とした場合,重量保持動作時は0.9~1.2であり重量の変化における有意な差は認められなかった.脊柱起立筋胸部において,5kg,10kgの順に10cmでは2.1,2.6,20cmでは2.9,4.1,30cmでは3.6,5.8であり,5kgと比較して10kgで有意に高値を示した(p<0.05).一方,脊柱起立筋腰部においては,10cmでは1.5,1.7,20cmでは2.2,2.7であり,有意な差は認められなかったが,30cmでは2.7,4.2であり,5kgと比較して10kgで有意に高値を示した(p<0.05). 中間周波数は,腹直筋上部・下部ともに重量の変化における有意な差は認められなかった.一方,脊柱起立筋では胸部・腰部ともに30cmにおいてのみ5kgと比較し10kgにおいて有意に高値を示した(p<0.05).【考察】 腹直筋上部・下部ではダンベルの重量の違いによる筋活動に有意な差は認められず,安静立位の筋活動と同程度であったことが確認された.これより,10kg程度までの重量は10cmから30cm程度までであれば腹直筋の筋活動を変化させることなく,物体を保持することが可能であることが分かった. 一方,脊柱起立筋の胸部では筋電図積分値の相対値において,全ての距離で重量の違いによる有意な差を認めたが,腰部では30cmの距離でのみ有意な差を認めた.これより,立位で物体を身体の前方で保持する際に脊柱起立筋の胸部では10cmでも重量の影響を受けやすいが,腰部では30cmの距離から重量の違いが影響し制動が必要となることが示唆された.臨床的に腰痛患者への生活指導では重量物の運搬に際して身体に近い位置での保持を推奨することが多い.本研究の結果から重量としては10kg程度の物でも脊柱起立筋には相当の活動が必要になること,および胸部脊柱起立筋においてはその活動は身体重心線付近から10cm程度の距離でも影響を受ける可能性があることが明らかとなった.【理学療法学研究としての意義】 重量保持動作時の体幹の筋活動の変化が明らかになることで,具体的な重量物の定義や重量物の運搬・保持時における身体と物体との適切な距離を同定することができ,その結果は,体幹機能に問題を有する症例への生活指導・動作指導に活用できる.

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© 2013 日本理学療法士協会
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