理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: C-O-15
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一般口述発表
高齢者における下肢筋力および筋力発生率と身体運動能力との関連
淵岡 聡樋口 由美岩田 晃小栢 進也井上 純爾
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抄録

【目的】 加齢に伴う運動機能や生活機能の低下は,その多くが筋力低下に起因するとされている。評価指標として最大筋力がよく用いられるが,日常生活において最大筋力を発揮する場面はほとんど見られない。近年,最大筋力のみではなく,筋の出力特性を質的に評価する種々の指標が提唱されている。RFD(rate of force development)は,筋力の立ち上がりの早さの指標として,最大筋力をその発生までに要した時間で除した値で示される。しかし最大筋力との相関を報告する研究もあり,最大筋力を発揮するまでに要する時間には非常に大きなばらつきがあるなど,個人の筋機能を評価する指標としての信頼性にはやや疑問が残る。 本研究ではRFDの概念を援用し,筋力発揮の初期段階での筋力発生率に着目し,移動能力を含む身体運動能力との関連を検討することを目的とした。【方法】 我々が地域在住高齢者の健康増進に資することを目的に開催している身体機能測定会(自分の身体を測定する会)への今年度の参加者を対象とした。本研究で使用した測定項目は身長,体重,筋機能として膝伸展筋力(角速度60および180°/secの等速性筋力:ISOK60およびISOK180,屈曲90°位での等尺性筋力:ISOM90),等尺性筋力測定時のRFDとした。等尺性筋力は目前のLEDランプ点灯を合図とし,「ランプが光ったらできるだけ早く強く力を入れる」よう指示し,数回の練習の後に測定した。RFDは等尺性筋力が最大値を示した力-時間曲線を抽出し,筋力発生から50msec毎に150msec後までの筋力を,体重と時間で除し,1秒あたりの筋力発生率として算出した:RFD50,RFD100,RFD150。なお,筋力発生は5Nm以上の筋力が検出された時点とし,合図から筋力発生までを反応時間:RTとした。さらに身体運動能力として5m歩行時間(通常・最速),Timed Up & Go テスト:TUG,5回立ち座りテスト:5-STS,Seated side tapping test:SSTを,それぞれストップウォッチを用いて2回計測し,最速値を解析に用いた。なお,SSTは過去の報告と同様,41cmの台上に着座させ,両側方に設置した目標物を左右交互に10回タップするのに要する時間を計測した。 各項目の関連はPearsonの積率相関係数を算出して検討した。統計解析にはJMP10を用い,有意確率は5%未満とした。【説明と同意】 本学研究倫理委員会の承認を経た後、全ての対象者に本測定会の内容および測定データの使用目的について口頭ならびに文書を用いて十分な説明を行い、書面による任意の同意を得た。【結果】 測定会に参加した65歳以上の110名(男29名,女81名)を解析対象とした。対象の属性(平均値±標準偏差)は,年齢74.9 ± 5.3歳,身長153.8 ± 7.5cm,体重51.0 ± 7.6kg,BMI 21.5 ± 2.6であった。筋機能項目の結果はISOK60 1.55±0.33Nm/kg,ISOK180 1.03±0.20Nm/kg,ISOM90 2.03±0.50Nm/kg,RT 0.30±0.07秒,RFD50 10.36±3.27Nm/kg/sec,RFD100 7.39±2.80Nm/kg/sec,RFD150 5.16±1.79Nm/kg/secであった。身体運動項目の結果は通常歩行 3.67±0.57秒,最速歩行 2.73±0.39秒,TUG 7.53±1.28秒,5-STS 8.56±2.22秒,SST 5.49±0.90秒であった。 RTDと身体運動能力との関係は,RFD50と最速歩行(r=-0.20),5-STS(r=-0.22),SST(r=-0.27)に,RFD100と最速歩行(r=-0.20),SST(r=-0.23)に有意な相関が見られた。筋力と身体運動能力との関係は,ISOK60とTUG(r=-0.22),通常歩行(r=-0.26),最速歩行(r=-0.36),SST(r=-0.30)に,ISOK180とTUG(r=-0.24),通常歩行(r=-0.26),最速歩行(r=-0.44),SST(r=-0.33)に,ISOM90と最速歩行(r=-0.22)にそれぞれ有意な相関が見られた。RTは5-STS(r=-0.27)とのみ有意な相関が見られた。【考察】 筋力指標では歩行速度やTUGと有意な相関がみられ,これまでの知見と一致する結果であったが,RFDは最速歩行や5-STS,SSTといった素早さが要求される運動課題において有意な相関がみられた。特に今回は筋力発揮のごく初期段階における筋力発生率を計測しており,量的指標である最大筋力とは異なる側面を評価する指標としての有用性を示すものと考えられた。また,最速歩行とSSTはRTとの関連が見られず,筋力発揮の初期段階における筋力発生率は,動作の素早さを評価する指標として,筋の反応時間よりも有用な指標である可能性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】 高齢者において,素早さが要求される身体運動機能は,最大筋力や筋の反応時間よりも,筋力発揮時の初期段階における筋力発生率との関連が強いことを客観的に示した点。

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© 2013 日本理学療法士協会
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