理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: D-O-03
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一般口述発表
包括的評価バッテリーを用いた廃用症候群患者の障害特性の分析
後藤 亮平大好 崇史田中 直樹金森 毅繁斉藤 秀之柳 久子長澤 俊郎小関 迪
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抄録
【はじめに、目的】 診療報酬において,廃用症候群に該当するものとして脳血管疾患等リハビリテーション料を算定する場合,廃用の内容を記載する事になっているが,その記載内容には規定がなく曖昧である.また,介入による改善の可能性や前回の評価からの改善や変化の記載に関しては,ADLの評価が中心になっている.しかし,廃用症候の改善が必ずしもADLの向上に繋がるとは限らず,ADLだけでなく,各廃用症候の評価を行っていくことが重要と考える.我々は,先行文献をもとに主要な廃用症候19項目を抽出し,包括的評価バッテリーとして報告した(後藤ら, 2012).今回これを用いて廃用症状群患者を評価する事と,その障害特性を分析する事を本研究の目的とした.【方法】 対象は,筑波記念病院一般病棟に入院し,2012年6月24日~9月30日の間に,脳血管疾患等リハビリテーション料(廃用症候群の場合)の区分で処方された患者124例とした.そのうち,期間内に退院した102例から,研究に同意が得られなかった者(6例),介入期間が1週間未満の者(15例),複数の算定区分をもつ者(4例),死亡退院した者(4例)を除外した73例の結果を解析した.調査項目として,年齢,性別,診断名,入院前ADL等を診療記録から情報収集,あるいは本人・家族から聴取した.また,日常生活自立度,移動手段,FIM,廃用症候19項目の包括的評価を初期評価時・退院時に行い比較した.廃用症候19項目の包括的評価は,筋力低下(握力・膝伸展筋力),関節拘縮(頸・肩・肘・股・膝・足関節の可動域),骨粗鬆症(有無),心臓機能障害(NYHA),起立性低血圧(血圧低下・自覚症状),運動耐容能低下(6分間歩行距離・30秒椅子立ち上がりテスト),深部静脈血栓症(有無),呼吸機能障害(SpO2・Hugh-Jones分類),肺炎(有無・A-DROPシステム),耐糖能障害(朝食前血糖値),便秘(有無・重症度),栄養障害(MNA),知的機能低下(MMSE・HDS-R),うつ状態(GDS),バランス機能障害(FBS),協調運動障害(ICARSの四肢協調運動),排尿障害(膀胱留置カテーテル挿入の有無・尿失禁の有無),尿路感染(有無),褥瘡(有無・DESIGN-R)であり,担当理学療法士がその評価を行い,分析は演者が行った.【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は,筑波大学医学医療系医の倫理委員会,筑波記念病院倫理委員会の承認を得て実施した.また研究の内容を,対象者または対象者の家族へ書面および口頭で説明し,同意を得た.【結果】 平均年齢は81.8±8.8歳(男性33例,女性40例),診断名はICD10における呼吸器系の疾患,消化器系の疾患が45%を占めていた.初期と退院時の比較では,FIMは61.4±29.6点から81.4±35.2点と有意な改善を認めた(p<0.05).廃用症候19項目では,握力(初期15.3±9.4kg,退院時16.2±9.3kg),肩関節外転可動域(初期146±34°,退院時147±34°),起立性低血圧の自覚症状,6分間歩行距離(初期54.1±92.2m,退院時118.8±125.1m),30秒椅子立ち上がりテスト(初期3.1±4.3回,退院時5.0±5.3回),SpO2(初期96.6±1.8%,退院時97.1±1.2%),肺炎の有無,MNA(初期14.5±6.0ポイント,退院時17.0±5.2ポイント),MMSE(初期19.9±7.4点,退院時20.6±7.3点),HDS-R(初期18.3±7.8点,退院時19.2±7.7点),GDS(初期4.9±3.4点,退院時4.6±3.2点),FBS(初期21.1±18.5点,退院時28.3±19.5点),膀胱留置カテーテル挿入の有無,尿失禁の有無,尿路感染の有無で有意な改善を認めた(p<0.05).【考察】 初期から退院時にかけて,FIMだけでなく,握力,肩関節外転可動域,6分間歩行距離,栄養状態など多くの廃用症候で改善を認めた.これより,廃用症候群患者に対してADLのみだけでなく,各廃用症候を評価する事の重要性が示された.また,我々が考案した廃用症候19項目の評価が,廃用症候群患者の包括的評価バッテリーとして有用であると考えられた.今後,さらに症例数を増やし検討していく事で,廃用症候群の障害特性に基づく脳血管疾患等リハビリテーション料(廃用症候群の場合)の算定基準を提案できると考えられる.【理学療法学研究としての意義】 廃用症候群患者の障害特性を明らかにすることで,廃用症候群患者に対してADLの評価だけでなく,代表的な廃用症候の評価を標準的に行う意義を示したと考えられる.
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© 2013 日本理学療法士協会
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