理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: D-O-03
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一般口述発表
当院回復期リハビリテーション病棟患者の入院時の栄養状態と身体機能・認知機能
今井 正樹榎本 洋司小暮 英輔笹井 俊秀西田 裕介
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抄録
【はじめに、目的】脳血管障害発症のリスクに繋がることから、糖尿病や肥満など生活習慣病が話題となる中、低栄養状態者の割合についての報告は少数である。回復期リハビリテーション病棟(回復期病棟)患者の栄養状態を調査した研究では、入院患者の20%以上が低栄養を疑われており、適切な栄養管理の重要性を言及している。本研究では、患者の栄養状態に応じたより効果的な理学療法プログラムを考案することを目的に、当院回復期病棟の脳梗塞・脳出血(CVA)患者の入院時の栄養状態と身体機能・認知機能を調査した。【方法】対象は2011年4月1日~9月30日までに退院した当院回復期病棟患者202名のうち、CVA患者146名から急変による転院・死亡・調査項目の不備が確認された患者計39名を除く107名(男性60名、女性47名)とした。対象者の入院時のカルテの情報をもとに後方視的に調査を行った。本研究は血清アルブミン値(Alb)3.6g/dl未満の対象者を「低栄養」と定義し、対象者を「低栄養群」と「対照群」の2群に分類し、年齢、介護認定の有無、発症から当院入院までの期間(入院前期間)、機能的自立度評価表の運動項目合計点(mFIM)および認知項目合計点(cFIM)、BMI、%上腕筋面積(%AMA)、Hb、CRPについて比較検討した。統計学的分析は、年齢は対応のあるT検定、介護認定の有無はカイ2乗検定、その他の項目はMann-WhitneyのU検定にて行い、有意水準は危険率5%未満とした。統計ソフトはIBM SPSS statistics ver.19を使用した。【倫理的配慮】本研究を行うにあたり、当院倫理規定および個人情報保護法に沿ってカルテの調査を行い、記載内容が院外に流出しないように細心の注意をした。【結果】対象者107名の入院時の栄養状態は、Alb値3.6g/dl以上は54名(50.5%)、3.0g/dl以上3.6g/dl未満は40名(37.3%)、3.0g/dl未満は13名(12.2%)であり、対照群は54名(男性34名、女性20名、年齢72.5±9.5歳)、低栄養群は53名(男性26名、女性27名、年齢77.6±9.3歳)だった。年齢は低栄養群が有意に高齢であり、入院前期間は対照群が平均30.4日で低栄養群の平均36.8日より有意に短期だった。介護認定は、低栄養群の17名が認定を受け、対照群の8人に比べ有意に多かった。またmFIM(対照群45.4±21.9 vs低栄養群30.9±20.1)、cFIM(対照群21.4±8.4 vs低栄養群16.0±7.0)、BMI(対照群21.8±3.4 vs低栄養群20.8±3.7)、Hb(対照群13.5±1.4g/dl vs低栄養群12.5±3.5g/dl)は対照群が有意に高く、CRP(対照群0.3±0.3 mg/dl vs低栄養群1.3±1.9 mg/dl)は低栄養群が有意に高かった。%AMA(対照群110.1±25.6% vs低栄養群102.1±31.3%)は有意差が認められなかった。【考察】結果より、Albを基準とした入院時の栄養評価では、当院CVA患者の約50%は入院時から低栄養状態だった可能性がある。また低栄養群は対照群と比べてmFIM・cFIMが有意に低値であり、低栄養状態と身体・認知機能の低下に何らかの関係を認めた。本研究は、仮説を「先行研究と同様に当院に低栄養状態の患者が存在し、栄養状態は患者の基礎情報や入院前期間に影響を受ける」として、カルテ情報を調査した。Albは栄養状態を表す指標と同時に、炎症などの代謝状態に影響を受けるため、データの解釈にはCRP、Hbなど他のデータも同時に確認する必要がある。本研究では、低栄養群はHbが低く、CRPが高かった。したがって、低栄養群の代謝は異化亢進状態にある患者が多かった可能性がある。CVA発症の侵襲による身体へのストレスは、炎症性サイトカインの分泌と体内貯蔵蛋白の分解を引き起こし、CRP合成とAlb低下を促進させる。侵襲の程度が大きい重症例では、エネルギー消費量が大きく低栄養状態に陥りやすいこと、また身体・認知機能低下の重度化がmFIM・cFIMに低下に通じることから、重症例ほど低栄養状態となり、十分な栄養管理のもとで運動負荷量を調整する必要があると考える。さらに、低栄養群は対照群と比べて高齢で、介護認定者が多く、BMIが高値であった。以上より、当院CVA患者の約50%は低栄養状態で入院され、それは重症度、病前の生活状況、年齢、体格など基礎情報が要因となった可能性が示唆された。一方で、入院前期間は対照群の方が短期だったが、%AMAは2群間で有意な差はなかった。回復期病棟入棟時の%AMAの値は、発症直後の栄養状態を反映しにくく、発症前の活動量を反映しているものと考える。よって全身の筋肉量の目安となる%AMAは、BMIなどと一緒に経過を追い数値を把握する必要があると考える。【理学療法学研究としての意義】CVA患者に対して運動療法を実施する際は、事前に患者の基礎情報、身体・認知機能から栄養状態を推測し、適切な運動の負荷量を検討することにより、運動療法の効果が向上する可能性が示唆された。
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© 2013 日本理学療法士協会
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