理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: A-S-07
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セレクション口述発表
若年者と高齢者における歩行開始動作の分析
島村 亮太高柳 清美金村 尚彦国分 貴徳安彦 鉄平安彦 陽子
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抄録

【はじめに、目的】高齢者の転倒の特徴として,姿勢や動作時の過渡期にバランスを崩すことがあげられる.なかでも歩行開始動作(gait initiation,GI)は,静止立位から歩き始める動作であるため,姿勢の変化が起こりバランスを崩しやすい動作である.GIにおける過去の報告では,高齢者は下肢の運動戦略が変化することにより,若年者と比較してバランスが低下し転倒のリスクが高い動作であると示唆された.臨床において動作を評価する際には,下肢だけでなく体幹を含めた身体全体の運動戦略の評価をすることが重要である.特に,体幹の質量は大きいため,GIにおいては体幹の運動が身体質量中心の前方移動に影響を及ぼすことが予想され,下肢だけではなく体幹も含めて分析する必要があると考える.しかし,GIの分析では体幹の運動を明らかにした報告は皆無である.本研究の目的は,GIにおいて身体の矢状面上における運動戦略を分析し,若年者と高齢者の違いを明らかにすることである.【方法】対象は,中枢神経疾患の既往がなく,過去1 年間にわたり転倒経験がなく,屋外歩行とADLが自立している若年者14 名(男性9 名,女性5 名),高齢者12 名(男性8 名,女性4 名).若年者の年齢は21.1 ± 0.7 歳(平均±標準偏差),身長は169.3 ± 8.8cm,体重は60.0 ± 7.5kgであり,高齢者の年齢は70.0 ± 4.9 歳,身長は158.7 ± 9.5cm,体重は56.8 ± 11.9kgであった。GIの開始肢位は,2 枚の床反力計の上に左右各々の足部をのせた立位姿勢とし,両足部は裸足で足幅は肩幅とした.立位中は前方を見るようにし,上肢は体側においた.課題動作は立位姿勢からのGIとし,ビープ音の合図を動作の開始として,右足を一歩踏み出し,そのまま3m歩行させた.課題は被験者の感じる自由速度と最大速度の2 条件で行った.課題の順番はランダムとし,それぞれ3 回の計測を行った.GIの運動学的データと運動力学的データは,6 台の赤外線カメラを用いた三次元動作解析システムと4 枚の床反力計を使用して求めた.GIを足圧中心が1 歩目遊脚側の下肢へ,最大に外側移動する時期(mediolatelal max COP,MLmaxCOP),1 歩目遊脚側の足部が離地し,床反力垂直成分が0 となる時期(toe off,TO),1 歩目遊脚側の足部が再接地し,床反力垂直成分が発生する時期(initial contact,IC)の3 つの時期に分類した.各時期において,Vicon Body Builderを用いて矢状面上での体幹と左右下肢の関節角度,身体質量中心と足圧中心の間の距離,歩幅を算出し,3 回の計測で得られたデータの平均値を代表値とした.各被験者内における速度間での比較には,対応のあるt-検定を使用した.なお,有意水準は5%未満とした.すべての解析には,SPSS17.0 J for Windowsを使用した.【倫理的配慮、説明と同意】本研究は研究に先立ち,埼玉県立大学大学院保健医療福祉学研究科倫理委員会より承認(受付番号,第22704 号)を得て,口頭にて十分に説明し,書面にて同意を得た後に実施した.【結果】若年者と高齢者は共に,GIの周期を通して身体質量中心と足圧中心の間の距離が,自由速度より最大速度で有意な増加が認められた.TOにおいて,若年者は体幹と胸部,腰部の伸展,骨盤の前傾,股関節と膝関節の屈曲,足関節の背屈に有意な増加が認められ,高齢者は体幹と腰部の伸展,膝関節の屈曲,足関節の背屈に有意な増加が認められた.ICにおいて,若年者は胸部と腰部の伸展,骨盤の前傾,股関節の伸展,膝関節の伸展,歩幅に有意な増加が認められ,高齢者は骨盤の前傾に有意な増加が認められた.【考察】若年者と高齢者は共に,速度が増加することでTOにかけて身体の前方への傾斜が増加したと考えられる.その際,若年者は体幹を伸展し,骨盤の前方移動を伴った姿勢で重心を前方に移動したと考えられる.しかし,高齢者は胸部の伸展の低下により体幹の伸展が不十分となり,骨盤の前方移動を伴わない前傾位で重心を前方に移動したと考えられる.若年者のGIではTOで十分な重心の前方移動が可能であったため,ICでは立脚側の股関節をより伸展位にすることができ,歩幅が増加したと考えられる.【理学療法学研究としての意義】若年者と高齢者におけるGIの運動戦略を明らかにした.胸腰部の運動戦略が異なることによって,GIの能力に影響を及ぼす可能性が示唆された.下肢だけでなく体幹に対する理学療法介入によって,GIの運動戦略を変えることができるものと考えられる.

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© 2013 日本理学療法士協会
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