理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: A-S-07
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セレクション口述発表
易転倒高齢者における前方転倒回避ステップの下肢筋活動パターン
越智 亮阿部 友和山田 和政建内 宏重市橋 則明
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キーワード: 転倒, ステップ, 下肢筋活動
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抄録
【はじめに、目的】つまずき等の後,下肢の踏み出し反応(以下,ステップ)は転倒回避にとって重要である.これまで,ステップを実験的に誘発する方法によって,高齢者のステップの運動学的特徴が明らかにされてきた(Hsiao ET, 2008.).高齢者と若年者を対象とした先行研究では,踏み出し脚における下肢筋活動パターンも異なることが示され,高齢者のステップが若年者よりも機能的に劣ることが明らかにされている(Thelen DG et al, 2000).しかし,これまでのステップの先行研究は年齢差の報告のみであり,易転倒性のある高齢者の反応は調べられていない.本研究の目的は,転倒歴のある者とない者の前方転倒回避動作における踏み出し脚の筋活動パターンを比較し,転倒発生の要因を筋電図学的に明らかにすることである.【方法】歩行が自立している高齢女性29 名を対象とし,過去1 年以内の転倒歴の有無によって易転倒群12 名(以下,F群:Faller)と非転倒群17 名(以下,N群:Non-faller)に分けた(年齢,F群;84.5 ± 6.5 歳,N群;81.6 ± 3.8 歳).被験者に転倒防止ハーネスを装着し,踏み出し脚の足底にフットスイッチ,腰部背面とケーブル牽引機構の間にロードセルを取り付け,表面筋電計と同期させた.筋電図導出筋は,踏み出し脚の大腿直筋(以下,RF),外側広筋(以下,VL),大腿二頭筋(以下,BF),腓腹筋外側頭(以下,GC),前脛骨筋(以下,TA)とした.筋電計と同期させたビデオカメラによりステップ長を記録した.ステップ誘発は,被験者に牽引ケーブルで背部を牽引した(体重の20 ± 2%の牽引力)状態で身体を前傾させ,検査者が牽引を解き放った後に下肢を前に踏み出させる方法とした.得られた筋電図データを,以下の3 相に分けた:牽引解除から踏み出し脚踵離地まで(以下,Lift-off期),踏み出し脚踵離地から接地まで(以下,stepping期),踏み出し脚接地から0.5 秒後まで(以下,contact期).筋電図波形を整流化,50msRMSで平滑化,各筋の最大等尺性筋力で正規化(%MVC)した.ステップの3 相それぞれで各筋の平均筋活動量,大腿(RF-BF,VL-BF)と下腿(GC-TA)の同時活動指標(以下,co-contraction index:%CI)を算出した.運動学的データとしてステップ速度(m/s)を算出した.統計処理は,F群とN群の全てのデータについて対応のないt-検定を用いて比較した.また,2 群のデータ全てで,ステップ速度を目的変数,各筋の筋活動量と%CIを説明変数として,ステップワイズ重回帰分析を行った.統計学的有意水準は5%とした.【倫理的配慮、説明と同意】所属施設の倫理委員会にて承認を得た(承認番号E1479).被験者には十分な説明を行い,書面にて同意を得た.【結果】ステップ速度はF群1.46 ± 0.32 m/s,N群1.78 ± 0.43 m/sで有意にN群の方が速かった(p< 0.05).多くの筋活動パターンはF群とN群で類似していた.筋活動量の差は,stepping期のRF(F群49.2 ± 23.8%,N群33.7 ± 14.4%,p< 0.05)とBF(F 群36.8 ± 14.6%,N群24.4 ± 12.5%,p< 0.05)のみに認められた.%CIはstepping期のRF-BFがF群で有意に高かった(F 群65.0 ± 8.9%,N群57.0 ± 7.7%,p< 0.05).ステップ速度に関連する独立因子として,Lift-off期のGC筋活動量(r= 0.679, p< 0.01)とcontact期のGC筋活動量(r= 0.553,p< 0.01)が抽出された.【考察】ステップの遊脚期間におけるRFの活動は,股関節を屈曲させ,膝を伸展させることに働く.このとき,拮抗筋であるBF の活動は素早い膝の伸展を阻害する.F群はN群よりもRFとBFの筋活動量が多く,同時活動量も大きかったため,過剰な同時活動により踏み出し脚の円滑な膝の動きが困難になっている可能性がある.ステップ脚の踵離地前の足底屈筋の活動量が高い程,ステップ速度が速いことから,ステップ速度を高めるために脚踏み出し直前の足底屈筋による床面の蹴り出しが必要になると考えられる.ステップ脚接地後のGC活動は,ステップ速度と関連する接地時の足部に加わる衝撃力を反映していると考えられる.【理学療法学研究としての意義】易転倒高齢者の転倒回避動作は,下肢筋群の協調的な活動が円滑に行われていない.転倒回避動作に着眼した転倒予防トレーニングを考案する上で本研究内容は重要であると考える.
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© 2013 日本理学療法士協会
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