抄録
【目的】臨床場面において,日常生活やスポーツ復帰に際し不安定感があり,パフォーマンスが発揮出来ず動作の中で健患差が残存するケースを経験する事がある.退行変性疾患である変形性膝関節症(以下,膝OA)患者においても,膝伸展筋における最大筋力が改善しても不安定感が残存し,日常生活に制限を来すケースが少なくない.日常生活では最大筋力を発揮する事より,適切なタイミングで筋力を調整する事が重要であると考えられる.先行研究では,発揮する筋力を要求値に一致させる視標追従課題を用いた検討がなされており,手指や上肢に関するものが多く,下肢に関する研究は少ない.そこで下肢の視標追従課題を用い,膝OA患者の運動の正確性を評価する事を本研究の目的とした.【方法】対象は,当院に通院している中枢神経疾患を有していない膝OA患者11 名(男性2 名,女性9 名,年齢70.9 歳± 2.5 歳),健常高齢者9 名(男性2 名,女性7 名,年齢71.7 歳± 5.9 歳)の計20 名である.運動課題は,端坐位(膝関節90 度屈曲位)での等尺性膝伸展運動による視標追従課題とした.まず、等尺性徒手筋力計(アニマ社: μ-tas F-1)を用いて,最大膝伸展筋力体重比(以下,膝伸展筋力)を算出し,追従課題における視標の最大値をこの値の10 〜20%となるように設定した.追従視標には0.3Hz,0.5Hz,0.7Hz,1.0Hzの三角波を用いた.1 試行は15 秒間の追従課題で5 試行を1 セットとした.各セットで提示される周波数の順序はランダムになるように設定した.課題遂行時,被験者の等尺性膝伸展運動による張力はロードセル(共和電業:LUR-A-1KNSA1)で検出し,パーソナルコンピューターに200Hzのサンプリング周波数で取り込んだ.この張力データと視標のずれから1 試行毎の二乗平均平方根誤差(以下,RMSE)を算出した.次に各周波数で5 試行を1 ブロックとしたRMSEの平均値を算出した.データ解析として各周波数のRMSE,左右の膝伸展筋力との間の相関分析を行った.また,膝OA患者と健常高齢者との比較にはt検定を用いて解析を行った.いずれも危険率は5%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】本研究は国際医療福祉大学倫理審査委員会の承認を受け(承認番号12-94),対象者には,紙面と口頭にて本研究の趣旨と内容について説明し,同意を得た.【結果】相関分析の結果,膝伸展筋力と各周波数のRMSEの間には有意な相関は認められなかった.しかし,RMSEの周波数間では有意な相関関係が認められた.RMSEの周波数間の相関係数はその組み合わせにより0.58 から0.79 とばらつくものの,統計的に有意であった(p<0.01).t検定の結果,膝OA患者と健常高齢者の膝伸展筋力に有意差は認められなかったが,RMSE については全ての周波数において膝OA患者の方が有意に高い値を示した(p<0.01).【考察】結果から,課題4 条件におけるRMSEでは膝OA患者の方が,有意に誤差が大きくなる事が分かった.その原因としてはメカノレセプターの関与が推測される.先行研究によれば,膝OAでは前十字靭帯(以下,ACL)が損傷の既往がなくても変性・断裂を来す事が指摘されている.加えて,ACLには関節覚に重要な役割を果たすメカノレセプターが多く存在し,筋収縮による関節運動のコントロールにおいて重要な役割を果たしている.こうした事が下肢の指標追従課題におけるRMSEの大きさに影響したと推察される.【理学療法における本研究の意義】本研究の結果から,膝OA患者は有意に高いRMSEを示した.運動器疾患を持つ患者の視標追従課題の特異性を検証する事で,最大筋力と異なる視点からの評価として,新しい理学療法評価やトレーニング方法を考案する可能性を見出せると考えている.